そうしたくないから、先生らはいろいろ工夫して、一生懸命、教材研究もしています。でも、ほんまに今、もう、人が足りなくて、過労から病気で休んでいく新任の先生や、『やっぱり務まらへん』となって辞めていく先生も多い。代わりの講師の人もいてなくて、今いてる先生が働き方改革どころじゃないことになって、結局、そのしわ寄せは子どもたちにも行くわけです。もうちょっと、社会が今の教育の問題をしっかり分かってくれて、単に先生が頼りないとか、さぼっているとかじゃないと理解してほしいです。『一律これだけのことを学習指導要領でやったらいい』という施策があっても、それをインプットしてやっていく学校の状況がそれぞれ違うし、子どもだって違う。そういうことがわかっていないと思いますね。
だから、堤未果さんが『デジタル・ファシズム』(NHK出版新書、2021年)で書かれていたのですが、竹中平蔵さんが、究極は『一人の優秀な教師』がいて、その人が『オンライン授業』するのが『教育の平等』みたいなことを言われるのを読むと、ほんまに僕は怒り心頭なんです。ひとりひとりに向き合ってくれる教師がいなくて、“配信”。それでついていけない子どもは自己責任で切り捨てられていくなんて、公教育においておかしいですよ」
2024年2月6日、久保は大阪市会へ「大阪市特別顧問による不当な支配に服する教育行政の抜本的な改善を求める陳情書」を提出した。情報公開請求によって、大森特別顧問から市教育委幹部への大量の「指示」メールの存在が明らかになった。久保に対する処分だけではなく、教育政策課長に対してのメールでは、「リベラルアーツ教育」や「チャレンジテスト」についての市教委の意向を覆させていることが判明した。旧教育基本法第10条には、「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負つて行われるべきものである」とあった(*)。
今、これもまた看過するわけにはいかない。海外の教育者たちの指摘から立ち上がった久保であるが、その行動には自身の教師体験という大きな裏付けがある。
久保「確かにこのままでは、教育はだめになる。競争と格差の拡大で学校の体力がどんどん失われているんです。僕が最初に校長を務めた学校では、トリプルワークしてるお母さんがいて、そんな状況やから子どもに対していろんなトラブルも起こすんです。でも、お母さんが、不真面目で悪い人なんかと言ったら、月末になったら電気代を払えないかもしれへん経済状況に追い詰められて大変なんです。そんな人に、『もっと子どものことを見てや』って、やっぱり僕は言えないなと思った。だから、学校や地域がカバーしてきたんです。でも今はそういう共同体が、学力とも言えないテストの点数を上げるという目標に忙殺されて分断されている。僕らはすべての子どもたちの未来のために役に立ちたい。教師って9割しんどくても1割子どもたちに嬉しいことがあったら、それが幸福なんです」
アイヒマン
アドルフ・アイヒマン(1906~1962年)。ナチス・ドイツの親衛隊隊員として、強制収容所へのユダヤ人移送に際し指揮官的役割を果たしたが、第二次世界大戦後の裁判では命令に服従しただけだと主張した。
(*)
改正教育基本法では第16条に「教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり、教育行政は、国と地方公共団体との適切な役割分担及び相互の協力の下、公正かつ適正に行われなければならない。」とある。
「GIGAスクール構想」
GIGAはGlobal and Innovation Gateway for Allの略。義務教育を受ける児童・生徒に1人1台の端末を貸与し、インターネット環境を整備してデジタル教科書などを使用したITC教育を行うという文部科学省の取り組み。