とはいえ、深海生物は決して奇妙キテレツな生物ではない。環境への適応という点では生物は皆同じであり、深海生物だけが特別な存在というわけではないということを強調しておきたい。
東日本大震災後の日本海溝の生態系の変化
これまでの深海調査で私が一番印象に残っていることは、東日本大震災後の日本海溝の調査だ。2011年8月1日、余震が心配されるなか、「しんかい6500」を使って震源の日本海溝に潜った。すると、そこは、崖崩れによって流されて堆積したウニやヒトデの死骸が微生物によって分解され、辺り一面が真っ白になっていた。また、地震によって海底に大きな亀裂が入り、硫化水素やメタンが大量にわき出している場所も確認した。1年後にも同じ場所に潜った。すると、白くなっていた場所は跡形もなく消えていた。硫化水素やメタンがわき出していた場所にも変化は見られなかったが、今後、この場所には新たな化学合成生態系が形成されることが予想される。
生態系の形成過程を観察し見守ることも含めて、今後も定期的に調査を続けていきたい。