今回の観測は2台の望遠鏡で行われ、重力波の検出とその原因が二つのブラックホールの衝突ということまでは分かりましたが、重力波がどのような角度で地球に来ているのか、つまりどこから届いたのかはまだ分かっていません。レーザー干渉計型の基本原理は、2方向を進む光の時間差(位相差)で測定するものですが、2カ所だけだと難しいのです。KAGRA、そしてヨーロッパと3地域4台の観測データが加われば、方向が確定します。
KAGRAは地下の施設のため、地上のノイズや熱のノイズの影響を受けにくいという利点があり、今後の観測に期待がかかります。
重力波については、どこから来ているのか、その場所を特定できるまでは純粋な天文学の分野とはいえず、今回の重力波の検出は、「重力波天文学」への扉が開かれたといった感じでしょうか。
地球型惑星がすぐ隣に?
天文学者にとって、地球外生命の発見というのはいちばん大きなテーマです。その意味で、非常にエキサイティングなニュースだったのが、ヨーロッパ南天天文台(ESO)によって、2016年8月24日(現地時間)に科学誌『ネイチャー』で発表された、地球型惑星「プロキシマ・ケンタウリb(プロキシマb)」の発見です。ちなみに太陽系外惑星(系外惑星)の場合は、発見された順に、恒星の名前の後にb、c、d……を付けて呼ぶというルールがあります。
プロキシマ・ケンタウリというのは、ケンタウルス座の恒星プロキシマ星のことです。プロキシマ星は赤色矮星(せきしょくわいせい)と呼ばれる、質量や半径が太陽の7分の1と小さめの星で、4.2光年と太陽からいちばん近い恒星です。そこからラテン語で「最も近い」という意味の「プロキシマ」という名が付けられました。
4.2光年という数字にびっくりされる方がいるかもしれませんが、宇宙から見るとすぐ隣といった感覚です。1995年、太陽以外の恒星を周回する系外惑星として初めて発見されたペガスス座51番星bは、約50光年離れた木星型惑星(ガス惑星)でしたが、プロキシマbは地球の約1.3倍の大きさの地球型惑星(岩石惑星)です。こんなに近くに地球型惑星があるということは、まだ発見されていない地球型の系外惑星が、数多くあるとの予測にもつながります。
また主星であるプロキシマ星が小さいこともあり、プロキシマbの1年は約11日、つまり11日で周りを1周します。2星間の間隔が近いことで潮汐力が働き、地球と月のように主星に対していつも同じ面を見せています。主星側の直下は暖かいので氷が溶けて海になっており、その周囲は凍っていると考えられ、これを宇宙から見ると目玉のように見えることから、こうしたタイプの星は「アイボール・アース」と呼ばれています。表面に水があるということは、生命体の存在の可能性をも示唆しています。
地球型とはいえ、プロキシマbは地球より過酷な状況下にあります。主星のプロキシマ星は「閃光星」といって普段の10倍の明るさになるような爆発を起こすことがあるからです。その際にはガンマ線やエックス線、紫外線などを大量に放出し生命体のDNAを傷つける恐れがあり、生命体にとって安住の地ではないと唱える生物学者もいます。一方で、突然変異が促進されることでもあり、進化を早めるという側面もあります。
我々は、地球がメジャーと考えていますが、数としてはアイボール・アース型惑星のほうが多いことはほぼ確かで、地球や人間はマイノリティーかもしれないということも、今回の発見から言えることです。
国立天文台では、2014年から史上最大の光学赤外線望遠鏡、TMT(Thirty Meter Telescope:30メートル望遠鏡)をハワイ島に建設予定で、20年代後半に完成する見込みです。TMTの高い解像度と集光力があれば、生命に関連した地球型惑星の大気に含まれる酸素や有機物の検出も可能になり、生命体の存在も明らかになることでしょう。
新しい月文化「スーパームーン」の正体は?
学問から離れ、一般の皆さんにも身近な天文ニュースで考えると、2016年最大のトピックスは、3月9日に日本のほぼ全域で見ることのできた部分日食でしょう。国立天文台のホームページでは、太陽観測衛星「ひので」が撮影した動画を公開しています。こちらでは皆既日食の状態で見られますので、ぜひご覧になってみてください。そして11月14日にはスーパームーンも話題になりました。古来から月見という習慣のある日本人にとって、受け入れやすい新しい月文化であり、多くの人が夜空を見上げました。ただし、地球に近づいたといっても最遠時よりも1割近いだけで、大きく見えるはずという皆さんの思い込み、つまり錯覚から大きく見えているだけで、天文学者からするとスーパーでもなんでもありません。
スーパームーンという言葉は、1979年にアメリカの占星学者リチャード・ノールが雑誌に書いたのが最初と言われています。2006年、NASAの広報がこの言葉を使ったことで一気に広がったものの、いまだ定義はなく、「次のスーパームーンはいつですか?」と聞かれても困ってしまいます。
それでも、新しい習慣が加わったことで、空を見上げる機会が増えたこと自体は悪いことではありません。今は、1万円以下の望遠鏡でも月のクレーターや土星の環などをはっきり見られるようになりました。私はツイッターで折に触れ「今夜の星空予報」を発信しています。それをご参考に、月だけではなく星空も楽しんでみてはいかがでしょう。