一方で、沖縄県以外の地域で採集されたアタマジラミについては、抵抗性遺伝子をもつ割合が5%程度であり、それほど抵抗性が大きな問題にはなっていないことが調査を通じて分かりました。
沖縄県で抵抗性遺伝子の頻度が異常に高い理由はよく分かっていません。また今後、駆除薬が長期的に使用され続けると、沖縄県以外の地域においても、この薬による駆除が困難になってくることが予想されます。
販売が待ち望まれる新たな駆除薬
それでは、人類には、このように抵抗性を発達させた「スーパーアタマジラミ」に対抗する手段はないのでしょうか? いや、そうではありません。既に欧米ではジメチコンやミリスチン酸イソプロピルといった新たな有効成分を含む新薬が登場しています。これらはシラミの呼吸を阻害して腸管を破裂させたり、皮膚表面のワックス層を溶かして脱水症状を引き起こしたりして、死に至らしめます。いずれも神経毒ではなく、物理的な作用をもつことから抵抗性が付きにくいのではないかと期待されています。
また、日本皮膚科学会や沖縄県薬剤師会などは、現在の駆除薬に抵抗性を獲得したシラミの問題解決のため、「イベルメクチン(2015年ノーベル生理学・医学賞を受賞された大村智先生が発見した殺寄生虫薬)」のアタマジラミへの適応承認を厚生労働省に対して要望しています。近い将来、日本においてもこれらの新たな作用機構をもつ駆除薬が承認・販売されることが期待されています。
「不潔だから」うつるのではない
アタマジラミは飛ぶことも、ジャンプすることもできません。寄主から離れたら、多くは48時間以内で死んでしまいますし、卵はセメント物質で髪の毛にしっかり付いていて、なかなか離れるものではありませんので、室内を消毒する必要もありません。帽子やシーツ、枕カバーなどは、気になるようでしたら、55℃のお湯もしくは熱風で5分間処理すると、卵も幼虫・成虫も死滅することが分かっています。衣類用乾燥機の利用も効果的だと考えられます。
自分の子どもはもちろん、身近な子どもにアタマジラミの感染が確認された時、彼らは「アタマジラミ=不潔」と結びつけてショックを受けてしまいがちなので、彼らの心を傷つけないように配慮することが大切です。また、自分の子どもに誰がうつしたのかという、「犯人捜し」をしないということが重要です。アタマジラミは不潔だから発生したり、うつったりするものではありません。毎日洗髪していても、ブラッシングしていても、予防効果は見込めません。周囲の大人たちが正しい知識と理解をもち、特に子どもの社会で広がりやすい差別やいじめにつながらないように、どうか十分に気を付けてください。
発疹チフス
コロモジラミが媒介する病原体細菌・発疹リケッチアによる感染症。12日間ほどの潜伏期間ののち、発症すると40℃にも及ぶ高熱と共に頭痛や悪寒、四肢の疼痛を引き起こし、発熱から数日後に発疹が全身に及び、時に意識障害に至るケースもある。適切な治療をしない場合、年齢にもよるが、致死率は10~40%に及ぶ。
回帰熱
シラミやダニが媒介する細菌感染症。回帰熱ボレリアと呼ばれる病原体は、シラミ媒介性のものは1種とされ、全世界規模で分布し、ダニ媒介性のものは世界各地ごとに約10種類存在する。5~10日ほどの潜伏期間を経て、発症する。初期の「発熱期」には頭痛や関節痛などを伴い、時に髄膜炎や黄疸などを発症する。3~7日を経て、いったん発熱が治まると「無熱期」へ移行し、5~7日間を経て、再度「発熱期」に回帰する。適切な治療をしない場合、病原菌の種類や患者の健康状態などにもよるが、致死率は数%~30%に及ぶ。
塹壕熱
シラミが媒介する細菌感染症。バルトネラ属の病原体細菌によるもので、潜伏期間は2~4週間。約5日間隔で40℃にも及ぶ高い発熱を起こす「発熱期」と、いったん熱が下がる「無熱期」を繰り返すことから「五日熱」とも呼ばれる。発熱と共に骨や関節の全身疼痛が起こる他、発疹なども見られる。致死率は、1%未満とされる。