乱立する野球団体
野球は明治5(1872)年頃日本へ伝えられ、瞬く間に日本人のあいだで最も人気のあるスポーツとなった。そして明治時代の中頃を過ぎると、大学野球(現在の東京六大学野球)が何万人もの観衆を集める巨大イベントと化し、大正時代に入ると全国中等学校野球大会(現在の高校野球)が始まり、昭和初期には都市対抗野球大会(社会人野球大会)や職業野球(現在のプロ野球)も創設され、他のスポーツの追随を許さない国民的スポーツと言えるほどの人気を獲得するようになった。が、それほどの人気を集めるようになった結果、それぞれの野球団体(組織)が、自分たちだけで運営可能となり、他の団体(組織)との交流のないまま発展するようになった。
とりわけアマチュア野球(高校、大学、社会人)とプロ野球は、昭和30年代以来激しい選手獲得競争を繰り返し、「犬猿の仲」と言われるほど交流が断絶した結果、現在でもプロ経験者のアマチュア選手への指導には、様々な規制がある(簡単に言うなら、元プロ野球選手は、たとえ自分の子供であっても、高校生や大学生に野球の指導を行えないのだ)。
さらにアマチュア野球のなかでも横のつながりは希薄で、(財)全日本大学野球連盟の傘下にある大学野球は、首都圏だけでも東京六大学、東都大学、首都大学の各リーグに分かれ、さらに北海道から九州までの26のリーグ(372校、2007年10月現在)が独自の運営をし、日本で最も古い組織である東京六大学リーグに天皇杯が下賜されている。
その大学野球と高校野球を束ねた(財)日本学生野球協会という組織があり、さらに(財)日本野球連盟(社会人野球、13~15歳のシニアリーグ、9~12歳のリトルリーグ、中学生をふくむボーイズリーグなどを率いる団体)を加えた全日本アマチュア野球連盟が存在する。そして、それに軟式の(財)全日本軟式野球連盟と、プロ野球の組織である日本プロフェッショナル野球組織、(社)日本野球機構を加えた全日本野球会議が存在している()。
そのような「統一組織」が誕生したのは、野球がオリンピックの正式競技になったことをきっかけに、JOC(日本オリンピック委員会)への加盟が求められたからだった。が、統一組織(上部組織)が下部組織に命令を下したり、統一した行動をとることはほとんどなく、各組織は相変わらず独自に活動を続け、 2008年の北京大会を最後に野球がオリンピックの正式種目でなくなったあとは、統一組織の存在自体が無意味になりかねない。
各組織が現状維持に汲々
が、そのように統一組織が事実上存在していないことこそ、「裏金」問題をはじめ、プロ・アマを問わず日本の野球界のすべての問題の根源と言えるのだ。プロで「裏金」問題が発覚、そして高校野球の「特待生問題」に飛び火……もしも、それがサッカー界で起きたことなら、日本サッカー協会が理事会を開き、問題の解決とルール作りに乗り出すことになる。そして、おそらく日本サッカー協会理事会は、当該のJリーグクラブ関係者や高校サッカー部関係者に処分を下し、アマチュアの高校サッカーよりもプロのJリーグクラブのユース・チームの育成方針を打ち出すだろう()。
ところが日本の野球界は、そのような統一された命令組織が存在しないばかりか、プロ野球は各球団(有力球団)の意向が強く働き、大学野球や高校野球も自分たちの組織の発展と利益だけを考え、おまけに各々の団体や組織が特定の巨大メディアと結びついている。その結果、他の団体に「付け入れられないように」という意識が働き、自分の組織の失態に対する処分が甘くなり、現状維持(現在の利権の保持)に汲々(きゅうきゅう)とする。
本来ならば日本の野球界全体の発展(強化)を考え、利害の対立などありえないはずの同じ野球をしている人々が、足の引っ張り合いを行っている、というのが現状なのだ。だから「裏金」も動けば、「ルール違反」も横行する。
まったくもって情けない現状ではあるが、「プロ野球の問題」や「高校野球の問題」を語る前に、「日本の野球の問題」を語らなければならないはずなのだ。