アニメソングが音楽チャートの首位に!?
アニメ作品の製作本数やDVDの売り上げが総体的に減少傾向をたどる中で、アニメソング(アニソン)は相変わらず好調な売れ行きを示している。2009年6月には、声優・水樹奈々のアルバム「ULTIMATE DIAMOND」が、声優のアルバムとして史上初めてオリコンの週間ランキングで1位を獲得。また8月には、テレビアニメ「けいおん!」の劇中歌を集めたアルバム「放課後ティータイム」も、シングル、アルバムを通じてキャラクターソング(アニメキャラクターの名義で発表された楽曲)として史上初めて同ランキングで1位となり、話題を集めた。音楽業界の低迷が叫ばれ続けている現在、アニソンのCDが安定した売り上げを保てている理由には、ストーリー、キャラクター(声優)、そして音楽と、複合的な要素がお互いに連動し合い、相乗効果で熱気を高め合っていることが挙げられる。ストーリーに人気があれば主題歌が、キャラクターや演じる声優に人気が出れば、キャラクターソングが注目される。また、高価なDVDやブルーレイよりも、安価なCDの方がファンアイテムとしての敷居が低く、中高生を中心とした若年層のアニメユーザーも手が出しやすいことも、安定した売り上げを支えている理由の一つだろう。
若年層を中心とした音楽CD購買層は、1990年代以降に活発化したアニソンシンガー以外のアーティストが歌うアニソンに慣れ親しんでおり、また高価だったシンセサイザーや音楽制作ソフトが安価になり、J-POPと音楽的な質が変わらないアニソンが当たり前になったため、抵抗や偏見を持たなくなってきているという分析もされている。通常のアニメ作品購買層とは違う、中間層のユーザーは今後も増加傾向にあるといわれており、音楽メーカー各社は、さらなる新規ユーザーの開拓に乗り出している。
加えて、90年代後半のアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」ブーム以降、アニメバブルと呼ばれる状況から空前ともいえるアニメ製作ラッシュへと至ったため、主題歌枠が増加し、その分アニソンシンガーも増加したことも、業界の活性化と多様化を促進した。その結果、さいたまスーパーアリーナで開催されている「アニメロサマーライブ」や、アニソン史上初めて行われた本格的な野外音楽フェスティバル「ランティス祭り」といった、数万人規模のイベントへと結実している。2009年8月にはNHKの音楽番組「MUSIC JAPAN」でアニソン特集が組まれるなど、日本国内のアニソンに対する急速な評価の高まりを感じさせる。
輸出資源としてのアニメソング
日本国内のアニメ、音楽マーケットが減少傾向にある現在、その視野を海外にまで向ける必要性が出てきた。昨今では、日本産のアニメやゲームを中心としたコンテンツ文化が海外でも高い評価を獲得し、ジャパンクールと呼ばれるトレンドの一つとして、認識され始めている。DVD、CD(主題歌、キャラクター等)、ライブ、グッズ販売というように、作品からマーチャンダイズまで含めた産業の複合的なプラットフォームが築きやすい利点を生かし、ジャパンクールの価値観が根付きつつあるヨーロッパやアメリカを中心に、アニメやゲーム等のコンテンツの輸入が盛んに行われるようになった。毎年7月にパリで行われている「JAPAN EXPO」は、海外の日本文化熱を象徴するイベントの一つだ。日本文化を愛するヨーロッパの若者向けに、日本産のアニメ、音楽、ゲーム、漫画などを紹介するイベントで、09年は来場者数が約16万人と過去最高を記録した。
同イベントの目玉として注目を集めたのが、日本でアニソンを歌うアーティストたちによるライブだった。ヨーロッパで今最も人気のある漫画/アニメとして知られる「NARUTO-ナルト-」の劇場版主題歌を歌うPUFFYや、秋葉原を中心とした、いわゆるオタク系音楽文化の象徴的な存在として知られるMOSAIC.WAV、ヨーロッパで高い人気を誇るアニメ「ヴァンパイア騎士」のエンディングテーマを歌った分島花音らが行ったライブでは、コスプレをしたファンが日本語でアーティストに声援を送るなど、まさに熱狂と呼ぶにふさわしい様相を呈していた。
近年はその他にも、ドイツ、イギリス、台湾、韓国、インドネシア、マレーシアといった地域でも日本のアニソンシンガーを招いたイベントが活発に行われており、アジアマーケットも注目されている。
独自の進化を遂げた濃厚な音楽
国内のみならず、国外でも熱狂を生むことができるアニソンの音楽的な魅力はいくつもあるが、特に重要なのは、すべてのアニソンは1コーラスを90秒に収めるという放映時のルールにのっとっていること、そしてアニメ作品の顔や象徴という立ち位置から、通常の音楽と比べても印象に残りやすいメロディーや音色で、簡潔にまとめられていることが挙げられるだろう。その特殊性は、日本文化独自のものである。1990年代後半から、インターネットを通じて海外のポップミュージックの影響が直接日本の音楽シーンにもたらされるようになったが、その結果J-POPが複雑化してしまい、プロフェッショナルな音楽作家が手がけていたかつての歌謡曲のような、簡潔な魅力を持ったポップミュージックが少なくなってしまった。しかし現在、アニソンの凝縮性は分かりやすい音楽を求めていた日本の若年層を中心に受け入れられ、同時に海外では、日本文化の中でしか生まれえない独創的で濃厚なポップミュージックとして、アニソンが受容されているのだ。
とはいえ、国内におけるアニソンの評価はいまだ満足のいくものではなく、30代以降の世代からの偏見は依然として根深い。より活発な世界的展開を目指すために、まず自国の文化として正しく評価することが急務といえるだろう。