きっかけは酒飲み話から
2010年9月に開催された「第5回B級ご当地グルメの祭典B-1グランプリ」は、神奈川県厚木市に、2日間で43万5000人を集めて閉幕した。今や国民的イベントとまで言われるようになったB-1グランプリだが、第1回大会が青森県八戸市で開催されたのはわずか4年前の06年2月、「B-1グランプリ」という構想そのものが生まれたのは、さらに半年ほど前の05年夏のことである。郷土料理の「せんべい汁」で八戸のまちおこしをしようと考えた異業種の市民団体「八戸せんべい汁研究所」の面々が、「八戸だけの活動ではなかなかメジャーにはなれない」「それなら全国大会をやって注目を集めよう」と、焼きとり屋の一角で飲みながら話したことがきっかけだった。最初はB-1グランプリといっても何のイベントかも理解されず、全国で10団体を集めるのにも大変苦労した。東北の極寒の冬2月の開催で、全国から料理が集まるとはいえ、たかが数百円の焼きそばや焼きとり、おでん、カレーなどの日常的な料理で、果たして人が来るのか、大変不安だったが、ふたを開けてみれば1万7000人を集め、ほとんどのメニューが昼には売り切れてしまう大盛況だった。
開催後はメディアにも取り上げられ、知る人ぞ知るイベントとなった第2回富士宮大会では、2日間で25万人を集め、一気に知名度を高めた。その後は第3回久留米大会、第4回横手大会と、地方都市に20万人以上を集客するイベントとして注目を集め、今回の厚木大会に至っている。
B-1グランプリはB級ご当地グルメの日本一を決めるイベントと銘打っており、実際に優勝や上位入賞すると大変な経済効果が見込まれるため、どうしてもそこに注目が集まりがちだ。しかし実はB-1グランプリ開催の目的は料理の順位を決めることではない。料理を通じてその地方に人を呼ぶことが、最大の目的なのである。
グルメイベントでも物産展でもなく──成功の秘密
世間一般のB-1グランプリに対する認識には、数多くの誤解がある。まず、飲食店や企業は出展することができない。出展できるのはB-1グランプリの主催団体である社団法人B級ご当地グルメでまちおこし団体連絡協議会(通称:愛Bリーグ)に加盟する「まちおこしに取り組む団体」のみである。B-1グランプリは、もともとこれらの団体が年に1回お披露目をする場であり、そこでメディアに取材してもらって、現地にお客さんに来てもらう仕掛けであり、そのためのツールである。最近、全国各地でグルメイベントが開催されているが、B-1グランプリはこうしたイベントとは一線を画す、全く別のイベントなのである。
一般のグルメイベントでは、イベント当日にお客様に来てもらいたいので、広告宣伝をイベント前に行い、しかもその日にしか食べられない特別メニューを提供する。「出店者」の多くは飲食店であり、そのお店でしか食べられないメニューを売るために努力をする。一方、B-1グランプリには、以下のような「しばり」がある。「その日にしか食べられない料理を出してはいけない」「どこかのお店でしか食べられない料理も出してはいけない」「現地で食べられるスタンダードなメニューを出さなければいけない」。
B-1グランプリはあくまで現地に来てもらうための仕掛けなので、地元ならどこでも味わえる普段着のメニューでなければならないのである。
またB-1グランプリは、基本的に主催者側からメディアへの事前告知を行っていない。開催地で地元実行委員会が行う事前広報を除き、愛Bリーグ本体としては極力開催後の情報発信に限っている。本来の目的は、B-1グランプリをきっかけに現地に行ってもらうことなので、大会自体の前宣伝よりは、結果を情報発信するほうがはるかに大切なのである。今でこそ多くのメディアが事前取材に来るが、厚木大会でも、事前予告より結果のほうが大きく取り上げられているはずだ。
このように、あくまでまちおこしに徹底的にこだわったコンセプトであり、仕掛けだからこそ、メディアが継続的に取り上げてくれるようになったのである。しかもグランプリ開催のたびに、出展団体の地元情報が併せて紹介されるため、わずか5年で地域密着型の手作りイベントが、全国的なビッグイベントにまで成長したのだと思う。
特筆すべきは、厚木大会で1位、2位になった「みなさまの縁をとりもつ隊(甲府鳥もつ煮)」の山梨県甲府市や、「ひるぜん焼そば好いとん会(ひるぜん焼きそば)」の岡山県真庭市で、大会の翌日に早速、行列や渋滞ができるなど、イベント開催の効果がすぐに地元に波及していることである。これはもともと目指していた、イベントを通じた地元への集客という目標の達成といえるだろう。
全国物産展などは何十年も前から開催されている。しかし、ものを売ることが目的のイベントは、それがどれだけ楽しくとも、現地に行ってもらうための仕掛けにはならない。B-1グランプリはグルメイベントとも物産展とも全く違う、まちおこしイベントなのだ。
B-1グランプリ不要論
B-1グランプリは今後どうなっていくかをよく聞かれる。私たちは、B級ご当地グルメが、温泉と同じように地域資源として認知されるようになれば、B-1グランプリそのものは必要なくなると思っている。旅に出た時に、「どこか近くにいい温泉ないかな」と考える人は多いだろう。同様に「どこか近くにおいしいご当地グルメ、B級グルメはないかな」と考えてもらえるようになれば、わざわざB-1グランプリを開かなくてもよいということだ。まだまだ知られていないB級ご当地グルメはあるはず。もともと数十年前からある富士宮のやきそばを、「の」を取って「富士宮やきそば」としてブランド化することで、お客様を呼べるようになった。これが「B-1」の本質である。B級ご当地グルメはまちおこしの強力な武器ではあるが、それは昨日今日創作した新メニューでなく、昔から地元に愛されている郷土料理のブランド化、ひいてはその地方のブランド化であることを忘れないでほしい。