スマートフォンで日常生活を記録し、ブログやフェイスブック、ツイッターで発信――。このようなライフスタイルが当たり前になりつつある一方で、手帳やノートに自分の体験や考えを書く「ライフログノート」への関心も高まっている。人生を記録することには一体どんな意味があるのだろう?
ライフログとは「人生そのままの記録」
ライフログとは、「人生(ライフ)の記録(ログ)」のこと。アメリカのマイクロソフト研究所のゴードン・ベル氏の研究や著作で有名になった概念である。ベル氏は、GPSやデジカメ、スキャナーで、移動ルートや食べたもの、読んだ本など、あらゆる体験のデータ化を提唱したが、そこまでやるのはちょっと……、と思う人も多いだろう。そんな人におすすめしたいのが、ごく普通のノートを使った「ライフログノート」だ。1冊のノートに、食べたものや行った場所、体重や読んだ本の記録などを書いていく、という方法である。
日記との違いは、その「自由さ」にある。ライフログノートは日記のように、「1日1ページ」、「感じたことを書く」といった決まりごとがない。だから、書くのを忘れたからといってノートに空白ができてしまうこともないし、書くのが面倒なら、ランチを食べたお店のショップカードを糊で貼り付けておいたり、毎日のジョギングのタイムを書いておくだけでもいい。つまり、これ以上ないくらい「気楽で自由」なのだ。
また、日記よりずっと「感覚的」だと言えるだろう。ファッション誌で気になった服の写真から友達が言った「なんとなく気になった言葉」まで、深く考えて文章に書いたりせず、とりあえずノートに入れておく、という程度で構わない。評論家の植草甚一や江戸川乱歩が作っていたスクラップブックにも近いものがあるだろう。
ノートに収録することで「空気感」を残せる
筆者もスマートフォンをかなり使いこんでいるが、ライフログは一貫して紙のノートだ。なぜ写真や動画、クラウドなどをフル活用しないのか? と問われれば、「空気感が残せるから」のひとことになるだろう。
記録した当時の筆跡や筆圧、使っているペンの種類、資料の手触りや風合い……などといった言語化されない情報は、想像以上に多くを物語る。
汗でしわしわになった特別展のチケットがノートに貼ってあれば、何年たっても「炎天下、1時間も並んで観たなあ」と当時の記憶がありありと思い浮かぶ、というわけだ。
また、形のない「記憶」や「データ」より、アナログの記録の方が目に見えて「たまる」ので充実感につながりやすい。たまったノートの厚みや、手を動かして生々しい記録を重ねていくと、「自分なりにちゃんとやってきた」というささやかな自尊心がわく。これは、成果を感じにくい日常生活での「ハリ」になるはずだ。
筋トレのメニューや勉強時間などを記録すれば、継続するモチベーションにもなる。仕事でも、時間短縮につながった作業工程、プレゼンテーションで効果的だったセリフや資料、次回の改善点などを残しておけば、これからの仕事もやりやすくなるだろう。
つまり、「体験を記録すること」とは、単なるデータベースをつくることではない。モチベーションアップや自分の成長につなげていくために、体験を糧にしていくことなのだ(図表)。
あらゆることを1冊のノートに詰め込む
では、具体的にどうライフログノートを作ればいいのか。
ルールは「一元化」と「時系列」、これだけだ。
「一元化」とは、ライフログノートは常に1冊だけを使うということ。ジャンルや仕事・プライベートで分けずに、1冊になんでも書く・貼る。というのも、カテゴリー分けは必ず破綻するからだ。仕事中、突然、自宅インテリアの改装プランを思いつくことはよくある。また、1冊だけを使うことで、ノートをさまざまな顔を持つ自分の分身のように感じられるようになる。
2点目の「時系列」とは、ノートをただ前から順番に使っていくということ。こうすると、映画の感想、仕事の企画、子育てメモなどが、ただ時間順にランダムに並ぶことになるが、その一貫性のなさこそ、現実の時間の流れであり、人生のそのままの姿だと割り切ってほしい。
記録法は自由だが、何か定点観測するものを決めておくといい。その方がノートをカバンや引き出しにしまいっぱなしにせず、こまめに開いて書く習慣ができるからだ。筆者は、健康のために、睡眠時間や食べたものだけは、ほぼすべて記録している。こういう定点観測するものがあると、自動的に記録は増える。昼ご飯を食べ終わって、メニューや摂取カロリーをメモしているとき、突然、午前中の会議で思いついたアイデアを思い出したのでちょっと書いておく、こういったことはよくあるのだ。
また、シンボルとなる資料を貼っておくのもおすすめだ。
会食したお店のショップカードをノートに貼り付けて、参加したメンバー、話したトピックなどを書いておくと、完全に忘れてしまうことはほとんどない。お店の場所や料理が記憶のカギになるからだ。
こうしてノートをこまめに付けていると、ノートの束は、そのまま自分の送ってきた人生の「タイムライン」となる。
楽しみでも、自分の支えでもあるノートに
ライフログノートを楽しんで続けるためには、お気に入りの文具を使うのも有効だ
。上質なノートに万年筆で読書の感想を書いたり、鉛筆を使って住みたい家や欲しいバッグのイラストを描いてみたり……。そんなひとときは、人付き合いやメディア、インターネットといった喧噪から離れた貴重な「自分の時間」になるだろう。
また、「撮りっぱなし」になりがちなデジカメ写真も、コンビニでプリントしてノートに貼れば、また違った趣が感じられていいものだ。
それに、ライフログノートは、後から読み返すのも楽しい。旅雑誌や新聞から切り抜いて貼っておいた風景写真や記事をパラパラとめくって見ているうちに、夏休みに行きたい場所が決まったり、自分が本当にやりたいことが見つかったりすることもよくある。記録の中に共通するものやテーマを見つけるからだろう。
ノートに礼状や褒められたメールを貼っておくのも、毎日の気分を良くしてくれる。
ピンチのときには、ハードすぎると思った仕事、血の気が引くようなミス、うじうじ心配したことの記録を読み返すのがいい。すると、どんな困難でも、自分は乗り越えて行ける、その能力があるはずだと信じることができるだろう。「これまでだって全部、乗り越えてきたんだから」「また振り返って、余裕だったと思える日が来るはずさ」と。
ライフログとは、楽しみながら自分をつくっていくための方法なのだ。