きちんとした「悪」であってほしい
1980年代後半の東西冷戦終結により、東西を隔て、自分側の体制を「正義」と見なす鉄のカーテンは消滅した。さらに、2001年のアメリカの9.11同時多発テロ事件とその後のアメリカのイラク侵攻は、人々の心に「正義」というものへの疑念を生じさせた。疑念はヒーロー界にも及び、生じた迷いによって正義と悪の同質化が進んできた感がある。確かに「正義」は一つではない。強者の「正義」がうさん臭いことも歴史が証明している。
しかし、「正義」はなくても、「善いこと」と「悪いこと」は確かにある。「人を殺してはいけない」「弱いものいじめはいけない」という規範は、時代が変わっても不変なはずである。
ヒーロー番組は、この国に生まれた多くの子どもが人生で初めて目にする本格的な映像作品だ。だから、その中の「悪」にはもっとシンプルでしっかりした存在であってほしい。子どもたちに、善いことと悪いことをきちんと教えてほしい。大人になって迷った時に、指針となるものを心の中に作ってほしい。悪の側にそんなことを求めるとは、いささか逆説的かもしれないが。
こんな時代だからこそ、善悪のはっきりしない消化不良の「悪」ではなく、ブレない憎々しい「悪」に頑張ってもらいたいと心から願っている。
ショッカー
「仮面ライダー」(1971~73年放送)に登場した、悪の組織。世界征服をたくらむ秘密結社で、正体不明の謎の首領を中心に世界各地に支部をもち、人間を改造して意のままに操ることで、人類の支配を実現しようとする。動植物がもつ特殊な能力を人間に移植する生体改造技術を誇り、数々の怪人を誕生させた。のちに、アフリカ奥地の秘密結社・ゲルダム団と合併してゲルショッカーとなる。同時に生体改造技術も向上させ、2種類の動物の能力を複合させた、より強力な改造人間を誕生させた。
ショッカーの幹部たち
ゾル大佐
ナチスの残党で、作戦の失敗が続く日本支部に中近東から派遣された。軍服に眼帯のいでたちで、電磁ムチをたずさえる。規律に厳しく、日本支部に派遣されてすぐ、戦闘員を「服装のたるみは精神のたるみだ」としかりつけたことで有名。狼男に変身した。演じたのは、宮口二郎。
死神博士
ヨーロッパから派遣された、改造人間研究の第一人者。白髪まじりの痩せこけた顔、白ずくめのスーツに襟の高い黒マントを羽織った、今なお語り継がれる伝説的悪役キャラクター。イカデビルに変身した。天本英世の怪演が全国の子どもたちを震え上がらせた。
地獄大使
世界各地に基地を作った実績を持つ三人目の大幹部。感情豊かで、悪の幹部には珍しい人間味を見せた。ちょっとおっちょこちょいな一面も。怪人さながらの三葉虫のようなスーツで全身を覆い、自ら前線で指揮を執ることも多かった。後に仮面ライダーZXと戦う暗闇大使とはいとこ同士である。ガラガランダに変身した。演じたのは、潮健児。
ブラック将軍
元ロシア帝国の将軍であったが、ゲルショッカー成立の功績を評価され、日本支部の幹部となる。性格は残忍で冷酷。ゲルショッカー結成にあたっては、それまでのショッカー関係者を全員殺害した。ヒルカメレオンに変身。演じたのは、丹羽又三郎。
死ね死ね団
「愛の戦士レインボーマン」(1972~73年放送)に登場した、悪の組織。第二次世界大戦中に日本人に虐げられた憎悪から、日本人皆殺しを企てる。同様の恨みを抱く各国・多民族の同志たちで構成され、最新科学兵器を導入したり、殺人のプロフェッショナルたちを雇ったりと、莫大な資金力を背景にした作戦を繰り広げた。最終回でも壊滅されずに存続するという、ヒーロー番組のセオリーを破った珍しい悪の組織。女性幹部が多いのも特徴。
死ね死ね団の主な幹部たち
ミスターK
死ね死ね団のリーダー。第二次世界大戦中に日本人に家族を殺され、自らも虐待された。日本人抹殺作戦の陣頭指揮を執る。演じたのは、平田昭彦。
イグアナ
レインボーマンを倒すための殺人プロフェッショナルチームのリーダーで、アフリカからやってきた。演じたのは塩沢とき。母、ゴッドイグアナは曽我町子が演じた。
ドクターボーグ
科学者。戦争中に日本人の軍医に妻を殺されたことで日本人に憎しみを抱いている。演じたのは、長沢大。