かわいいチッチは、おばあちゃん似?
義母はよく「鼻が高くなるように」と、チッチの鼻をつまみます。鼻つまみの儀式が行われるのはチッチのお風呂タイムで、義母はついでに「陥没しないようにね」と、チッチの乳首もつまみます。陥没乳首を持つ私の血を引いているから、心配なのか? さらに「カールしたほうが可愛い」と、オイルを塗った手でチッチの髪をクルクルしたり。そんなことしなくても、チッチはとってもかわいいのに! 特に私が気に入っているのが、コーヒー色の髪とアーモンドみたいな目と、小さな口。そして、周囲の人からよくほめられるのが肌の色です。
「なんて白くて可愛いの!」。チッチを見た人は、みんなそう言います。多民族国家のミャンマーでは、人種によって肌の色はさまざま。タウンジーに住む中国系やシャン族は肌が白く、ほかの民族はちょっと茶色い肌をしています。そんな環境にあって、「白くて可愛い」は、肌の白い民族の子どもをほめるときによく使われる言葉なのです。日本では「色の白いは七難隠す」と昔から言いますが、ミャンマーでも色白は大人気! 肌の茶色い人たちの色白への憧れは、日本人以上に強いように思えます。
また、同じ月齢の子と比べると小柄なチッチは、病院でも大人気! 予防接種でたくさんの子どもが集まっている中、チッチだけが「抱っこさせて」と、病院スタッフに連れて行かれます。そのたびに「やっぱりチッチがいちばんかわいいね!」と、心の中でにやける私。ついでに言えば、義母はチッチがかわいいと言われるたびに大喜びしていますが、その表情がいちばんトロけるのは「おばあちゃんに似てるね」と言われたときです。
アッラーが子どもをえこひいき?
チッチの髪は、よく「染めたの?」と聞かれます。が、新生児の髪を染めるほどおバカな親ではありません。生まれつき、きれいなコーヒー色をしていたことに加え、最近は毛先にゴールドのメッシュまで入ってきました。現在2歳の義弟の子(チッチのいとこにあたる女の子)も茶髪なので、「夫側の遺伝子なんだろうな」と思っていたら、パンデー(中国系イスラム教徒)の子どもは茶髪が多いと聞きました。というよりも、パンデーには真っ黒な髪の子は少ないとか。でも、茶髪の子も成長すると、ほとんどが黒い髪になるそうで、夫の妹もこのパターン。今は黒髪ですが、小さいころは茶髪だったそうです。仏教徒の友人は「パンデーの子が茶髪なのは、ユダヤの血が入っているからだ」と言っていました。これに対し、「中国はロシアと近いから、ロシアの血が入っているのでは?」というのが夫の説。妻という立場を差し引いても、夫説のほうに信憑(しんぴょう)性があるように思えます。
さて、パンデーには、茶髪の子について二つの説があります。「その子はアッラーに愛されている」という説と、「めっちゃ悪い子」という説。この話を聞いたとき、「アッラーが信徒の子をえこひいきするのか?」という疑問が一瞬頭をかすめたものの、「わぁ、チッチはアッラーに愛されているんだ!」と強く思い込んだ私です。
風習&宗教から「髪を剃れ」のダブル攻撃
アッラーに愛されている証しのチッチの茶髪ですが、周囲の人たちからは「早く剃れ」と言われています。というのも、ミャンマーでは、赤ちゃんのときに髪を剃ることによって、大人になったときにきれいな髪になると言われているから。このため、赤ちゃんの髪は剃るのが当たり前。いや、人々は当たり前以上にもっと強く「赤ちゃんの髪は絶対に剃らなければならない!」と思っているようで、「日本では剃らないよ」と言うと、すごく驚かれるのです。加えて、イスラム教でも、赤ちゃんの髪は「剃らなければならない」とされています。理由を尋ねてみても「わからない」と言われるだけなのですが、いずれにせよ、宗教上のルールとしてチッチの髪は剃らなければならないらしい……のですが、私としては、剃りたくない!
この「剃れ剃れ」攻撃の中、強い味方は医師です。近年はミャンマーでも、医師が「6カ月を過ぎるまで剃るな」と指導するようになりました。あまり小さいときに剃ると、風邪をひきやすくなったり、頭をぶつけたときにガードするものがなく危険だから、とのことです。チッチの主治医も「6カ月までは剃るな」派。だから、おせっかいなパンデーのオバさんから「剃りなさい」と言われても、「医師に剃るなと言われている」と言い訳して逃れていました。では、6カ月を過ぎた現在、どうしているか? 夫は「暑いから髪を切ったほうがいい」とは言いますが、「剃れ」とは言いません。だから剃ってません!
チッチの髪で記念筆を作る!
もちろん、「剃れ剃れ」攻撃をかわす作戦は考えてあります。日本では、赤ちゃんの髪で「胎毛筆」という記念の筆を作る風習がありますよね。チッチを産むまでは「そんなの必要なくない?」と思っていた私ですが、チッチのコーヒー色の髪を見たとたん、コロッと転向。「大人になると黒くなるかも。だったらこの茶髪を残しておかねば! そうだ、筆にして保存しよう!」と。チッチを連れて帰国するときが、筆を作る絶好のチャンス! そのときちょっと短めにカットして、「剃れ剃れ」攻撃を受けたときは、「日本で剃りました」とごまかすつもりです。
ちなみにミャンマーには毛筆文化がなく、筆そのものも、筆という単語もありません。このため、記念筆を作る日本の風習について話したとき、夫は「そんなのあるの!?」と驚いていました。そしてチッチの髪で作る話になると、賛成も反対もなく、「やりたいならどうぞ」というくらいのノリでした。
濃い眉毛はイケメンの条件?
というわけで、髪の毛問題は対策済みですが、困っているのは眉毛問題。チッチは眉毛が薄く、義母やパンデーの人たちはチッチを「白くて可愛い」とほめる一方で、「眉にキンマの葉の汁を塗れ」と勧めてくるのです。キンマとはコショウ科の植物で、その葉の汁を塗ると、塗ったところに毛が生えてくるそうです。軽いノリではなく、真剣に「私が買ってきてあげるから、ぜひ塗りなさい!」と迫って来る人もいて、全力でお断りしています。そんなの塗って、チッチの眉毛がゲジゲジになったら嫌ですから!
パンデーだけではありません。ミャンマーでは、民族を問わず、男の子の眉毛は濃いほうがよいとされています。先日、勤務先のスタッフの女の子からも、「濃いほうがいいに決まってます。一度くらい、子どもの眉にキンマの汁を塗ったらどうですか?」と言われてしまいました。
ミャンマー人の好みはどうあれ、私は、薄くてボサボサの夫の眉毛が自然でいいと思っています。夫だけではなく、周囲の男性たちを見ると、パンデーはそんなに眉毛の濃い人はいません。これに対し、眉毛が濃いのがインド系。義母によれば、「インド系は鼻が高くて、眉毛もまつ毛も濃くて、きれい」なのだそうです。その分析だけで終わればいいものを、ある日突然、義母が「チッチの目がパッチリするようにオイルを塗ろう」と言い出しました。あるインド人から、何かのオイルを塗るとまつ毛が濃くなると聞いたようですが、これも全力で断っています。
イケメンの基準は国や地域によって異なるし、時代によって変化もするし、何よりも個人の好みってものがありますよね。中国系ミャンマー人を父親に、日本人を母親に持ち、パンデーコミュニティーの一員であり、日本国籍のチッチは何を基準にイケメンへの道を進めばいいのか? いやいや、そんなことよりも、今はキンマ攻撃から逃げる対策を考えねばなりません。