利用上の矛盾も
情報が一瞬で世界中に拡散するようになった現在、プライバシーの保護が社会的な課題となっている。地デジや衛星放送の番組においても、「街録り」でカメラに偶然映り込んでしまった人物の顔をはじめ、車のナンバープレートや電柱の電話番号が読み取れるほど解像度が向上し、その結果、ボカシ処理が施されるようになった。4K化でさらに解像度が高まれば、ボカシを入れる必要性もより増していくに違いない。また、「スタジオ録り」の映像でも、出演者にとっては顔の小じわや毛穴まで映ってしまう問題がある。現在のハイビジョン放送でも、それらを目立たなくさせる「ハイビジョン対応ファンデーション」が利用されているほどで、4Kや8Kでは、特に女性の肌をデジタル処理で滑らかに見せる「美顔モード」のような技術も研究が進んでいる。だが、せっかくの高精細化も、デジタル処理でディテールを「なめす」ことになれば、意味がない。
鍵はネット伝送
放送に限らず、4Kや8Kをデジタル技術という大きな枠組みで見ると、技術の成熟へ向けた進展は早いと思われる。しかし、まだ放送方式も確定していない以上、今後の機能向上に合わせ、システムの頻繁な更新が求められるようになると考えられる。たとえば、ソフトウエアをアップデートできるテレビ、外付けのチューナーやSTBの交換など、システムの更新に合わせて柔軟にアップグレードしていける視聴環境が前提となるだろう。
また、4K化や8K化には高速インターネット回線が一定の役割を担うものと考えられる。たとえば、通信容量を増強するために、放送波とインターネット回線の両方からデータを送信し、それらを統合して扱う方法も検討されている。
4Kは次のスタンダードになるのか?
現在スタンダードである地デジが、当面その地位を守るのは間違いない。放送インフラが整備され、全ての家庭で受信できるに至ったシステムが確立されたからである。あまりにハイスペックな8Kはさておき、4年前に全国へ行き渡ったばかりの地デジが、10年も経たずに4Kへ切り替わるとは考えられない。4Kは、BSやCSなどの衛星放送やインターネット配信を中心に、希望する視聴者が任意で楽しむものとなるだろう。これは、現在の地デジ放送に対するBS/CS衛星放送といった関係性と変わりなく、無理のない考え方だ。
だが一方、一部の視聴者だけが楽しむ特別な4K放送と位置づけた場合、制作者や放送事業者がコストを回収できず、ビジネスとして成立しない懸念もある。
正直なところ、4Kや8Kは必要か?
テレビの高精細化は、実物を見ているのと同等の感覚が得られるまで続けられるだろう。今、私たちが視聴しているフルHDは、現時点の技術で実現し得る「現実解」に過ぎない。ホームエンターテインメントとして、さらなる高精細化は必要だ。しかし、動画圧縮や伝送技術について言えば、現時点では4K、8Kの恩恵を受けるには不十分であり、革新的なアイデアと技術開発が待たれる。「2020年の東京五輪までに放送インフラを整備する」など、期限を優先して現状の技術で無理に推し進めると、価値の見いだせない4Kや8Kができあがってしまう懸念もある。
4K、8Kという2段階のステップが混乱を招いているのも事実だ。技術面では、4Kを通過点と捉え、8Kを最終目標と考える向きもあるが、カメラ、制作機器、伝送装置など、機材更新が必要な放送事業者にとっては、短いスパンでの膨大なコスト負担は死活問題だ。国策として進めるのであれば、補助金を支出する一方で、得られたノウハウや技術を政府が責任をもって世界に販売し、国益として回収する義務がある。そうした覚悟がなければ、早急な4K化と8K化は「痛み」にしかならないだろう。
数々の懸念が払拭(ふっしょく)され、より高精細で高画質な放送時代の到来を期待したい。
4K
横3840画素×縦2160画素(約830万画素)からなる超高精細映像で、現行のフルHD(フルハイビジョン)の横1920画素×縦1080画素(約207万画素)と比べてちょうど4倍の画素数となる。「1000」を「1k(キロ)」と称することから、横方向の3840画素を約4000画素とみなし、「4K(ヨンケー)」と呼ぶ。2014年6月2日からCS衛星放送「Channel 4K」による試験放送がはじまっている。光回線を使ったネット配信のVOD(ビデオオンデマンド)では、同年10月27日から「ひかりTV 4K」の実用サービスが開始された。また、15年3月1日からCS衛星放送で世界初の有料4K放送サービス「スカパー!4K 総合」と「スカパー!4K 映画」がスタートした。
フルHD
フル・ハイ・ディフィニション(Full High Definition)、つまりハイビジョン規格の上限となる高精細映像のことで、フルハイビジョンと同義。衛星放送やブルーレイディスクソフトの映像など、横1920画素×縦1080画素(約207万画素)の映像をさす。横方向の1920画素を約2000画素と見ることで、「2K」などとも呼ばれるようになっている。
8K
「スーパーハイビジョン」とも呼ばれる。NHKが中心になって開発している、横7680画素×縦4320画素(約3318万画素)からなる超高精細映像で、現行のフルHD(フルハイビジョン)の横1920画素×縦1080画素(約207万画素)と比べてちょうど16倍の画素数となる。「1000」を「1k(キロ)」と称することから、横方向の7680画素を約8000画素とみなし、「8K(ハチケー)」と呼ぶ。
動画圧縮
膨大になりがちな動画映像データは、伝送帯域の節約を目的とし、圧縮して視聴者に届けられている。1秒間に30~60枚の静止画が連続して構成される動画映像は、前後の画に関連が多く、可能な限り差分のみを伝送することで、大幅なデータの圧縮が可能になる。この仕組みでは、動きの少ない映像ほど圧宿効率が高まる。
たとえば、フルHD(フルハイビジョン)の映像では、約207万画素で1秒当たり30コマを要するので、1秒分のデータ量だけで約1.5Gbit(15億ビット)、つまり約1.5Gbps(15億ビット毎秒)にもなってしまうが、衛星放送のフルHD放送の平均ビットレートで言えば、約20Mbs(2000万ビット毎秒)まで圧縮している。映像のような膨大なデジタルデータを扱う際には不可欠な技術であり、MPEGを基本にさまざまな手法や技術が生まれ、成熟の域に達しているが、今後の4K、8Kの高精細時代に向け、さらなる進化が期待される。
地上デジタル放送
かつての地上波アナログ放送に置き換わる新しい放送で、「地デジ」と呼ばれる。ハイビジョン放送ではあるが、原則、横1440画素×縦1080画素(約156万画素)で、衛星放送などによるフルハイビジョンの横1920画素×縦1080画素(約207万画素)より解像度は低い。またハイビジョンではない標準画質で3番組を同時に放送するマルチ編成にも対応している。