アメリカ連邦最高裁の「同性婚」合憲判決
2015年6月26日、アメリカの連邦最高裁は全ての州で同性婚を認める判決を下しました。アメリカではこれまで同性婚の是非を巡る司法判断が州によって分かれていました。全米50州のうち、37州と首都ワシントンでは同性婚が認められていましたが、一部の州ではまだ同性婚は認められていなかったのです。しかし今回の歴史的判決で、事実上、全米で同性婚が法制化されることになりました。相手の性別を問わず、結婚が出来るようになったのです。同年6月28日にはニューヨークで「プライドパレード」が行われました。プライドパレードはLGBTの権利拡大を呼び掛けるために、1970年から続けられています。26日の判決を受けて、パレードには2万人以上が集まりました! 過去最多の参加者です。私も、パートナーの増原裕子さんとパレードに加わり、街を挙げての祝福ムードと人々のエネルギーを体感してきました。街の至る所にLGBTのシンボルである6色のレインボーフラッグが掲げられ、LGBTではない人々からの声援もありました。沿道で「私たちはストレート、そしてあなた方を愛している」というプラカードを掲げている方々の姿を目にした時、本当に心が打たれました。
渋谷区の「同性パートナーシップ条例」
LGBTの人権に関する動きが今、世界中で活発です。日本でも2015年3月31日に東京都渋谷区において「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」、通称「同性パートナーシップ条例」が本会議で可決、同年4月1日より施行されました。同年2月12日に条例案提出のニュースが流れたその時から可決されるまで、私はドキドキしながら見守っていました。署名サイトの「Change.org」では、LGBT当事者に限らず、多くの人から条例可決を求める署名が集まり、1万1000筆を超えました。それを陳情書に添えるという形で渋谷区議会にお届けする、という動きがありました。条例採決当日の3月31日には、私と裕子さんは渋谷区本会議場に傍聴に行きました。決まった瞬間は心からうれしかった。「本当に、本当に、可決されたんだ! 渋谷区いいね! すごい!」という素直な喜び。大きな一歩が踏み出された感動。一生忘れられないと思います。
なぜ渋谷区は全国に先駆けてこのような条例を施行出来たのでしょうか。
現在、渋谷区長に在任されている長谷部健さんは、3期連続で渋谷区の区議会議員を務めてこられました。その傍ら、清掃活動などを行うNPO法人グリーンバードの理事長としても活動されています。ある時偶然、トランスジェンダーの当事者であり活動家でもある杉山文野さんに出会われたそうです。杉山さんはご自身のお友達、性同一性障害の方々を始め性的マイノリティーと言われる方々を、どんどんグリーンバードの活動に連れていきました。みんなで一緒にゴミ拾いをする中で、長谷部さんはLGBTをとりまく課題を知るようになりました。そして「あれ? LGBTもそうでない人も、みんな全然変わらないじゃん。なのにどうして社会的な壁が立ちはだかっているんだろう?」と思ったそうです。早速、長谷部さんは区議会でLGBTに関する質問を行いました。このように一人ひとりの活動がつながっていき、今回の条例可決へと道が作られていったのです。
条例で何が変わるのか?
さて、同性パートナーシップ条例によって、今後どのような変化が期待で出来るかについてお話ししたいと思います。条例の施行により、渋谷区内に在住する20歳以上の希望する同性カップルに渋谷区から「パートナーシップ証明書」が発行されることになります。同区は、同性カップルを「結婚に相当する関係」と認めて証明書を発行します。15年11月中には証明書を発行出来るよう目指しています。
証明書を手に入れたらまず私がしたいのは、コピーを取って免許証などと一緒に常に携帯しておくこと。突然の不慮の事故などでどちらかが入院しなくてはならなくなった時、果たして病院で家族として扱ってもらえるのか、すぐに面会出来るのか、といった心配がこれまでは常に付きまとっていました。しかしこの証明書があれば、きっと理解してもらえるでしょう。それから、普段の生活でも例えば引っ越しの手続きで役に立つでしょうし、携帯電話を契約する時の「家族割引」など、これまでは利用出来なかったサービスも受けられるようになるかもしれません。こんな当たり前でささいなこと一つひとつにも不便を感じる生活が、少しずつ改善されていくことを期待しています。
例えば不動産業の方、携帯電話会社の窓口の方の対応を考えてみると、「同性カップルを認めたくない」といった差別意識があるというより、ただただ「前例がないことや例外に対してどう対応していいか分からない」というのがこれまでの実情なのではないかと思います。条例の施行と、そのニュースが全国規模で知られることによって、きっと多くの方々の理解が得られ、世の中が変わっていくきっかけになるのではないでしょうか。
条例施行後でも変わらないもの
同性パートナーシップ条例の施行は本当に喜ばしいニュースですが、かと言ってこれで全てが解決するわけではありません。まず、パートナーシップ証明書を取得するには、公正証書を作成し登記することが必要とされています。1通につき数万円の手数料が掛かり、平日の昼間に公証人役場まで二人そろって行く必要があります。婚姻届は24時間受け付け可能で、もちろん無料ですよね。ですから、同性間のパートナーシップ証明書と異性間の婚姻届に大きな差があるのは事実です。また、例えば男女の夫婦ならば受けられる税金の控除や、配偶者や子どもの遺産相続権の確保など法律上の問題についてはこれから解決すべき課題で、本条例には含まれていません。でも、最初から完璧なものはありません。平等ではない現状に甘んじるつもりはありませんが、一歩一歩公平な世界へ向かっていけたらと私は思っています。
同性婚について考えるシンポジウムで憲法学者の木村草太さんから、「公正証書は本来誰でも作成出来るものであり、この条例はもともと出来る範囲のものを活用しつつ“この二人は同性ですが、共同生活をしている結婚に相当する関係ですよ”と行政としてお墨付きを与えるものに過ぎない。言ってみればそれ以上のものではない。同性婚の法制化は民法の改正でできるので法技術的にはすぐにでも可能だが、あとは社会的・政治的判断だ」という旨のお話をうかがいました。
「同性婚」いろいろな生き方を大切にする社会へ(2)へ続く。
LGBT
【L】レズビアン(女性同性愛者)、【G】ゲイ(男性同性愛者)、【B】バイセクシュアル(両性愛者)、【T】トランスジェンダー(生まれた時に法律的、社会的に割り当てられた性別にとらわれない性別のあり方を持つ人。性同一性障害を含む)の頭文字をとった単語で、セクシュアル・マイノリティー(性的少数者)の総称の一つ。