子どもはセックスではなく話し合いで生まれる
――家族を作るとき、血のつながりを重視しますか?増原 いえ、私は全くそういった考え方はないんです。ただ、特別養子縁組は婚姻関係にある男女の夫婦にのみ認められるものですから、私たちにはできません。もしもその選択肢があれば、私自身はそれも含めて検討したかったのですが、そもそもそれは選べないので、人工授精をして自ら妊娠・出産しよう、と思うようになりました。
東 私ももちろん、養子縁組は素晴らしいと思います。家族の定義とは、本当のところ血のつながりではないと私は思っています。しかしその一方で、保守的な金沢に育ち、血のつながりを重視しがちな価値観を内面化している自分に気づかされることもあります。家族って何だろう、と探りながら歩んでいるので、自分自身の変化も含めとても面白く感じます。
増原 子どもを持ちたい、育てたいという気持ちは一致しているのですが、妊娠や出産に対する感じ方はちょっと違うんです。私は、産んでもいいし産まなくてもいい、と思ってきたタイプです。どうしても産みたいとこだわっていたわけではないんです。
東 私は、やっぱりせっかくなら妊娠・出産も経験してみたい、と思うタイプです。どんな女性も「産みたい」と考えているかといえばそうではないのと全く同じで、レズビアンである私たちもそれぞれ違う。
増原 私は今、単純に「子どもがほしいな」って思います。そこにあまり明確な理由はない。それは男女のカップルでもきっと同じですよね。「こういう理由で子どもがほしい」って、妊娠・出産に臨むわけでは必ずしもないと思う。
東 うんうん。子どもが持ちたいと思う気持ちには、異性カップルでも同性カップルでも、きっと大きな違いはないはず。ただ、男女のカップルと私たちが決定的に異なるのは、「おめでた婚」があり得ないことだね。
増原 そうだね。
東 だから、同性カップルの間の子どもは「セックスで生まれる」というよりも、「話し合いで生まれる」。
増原 子どもが生まれるまで、私たちも長い時間を掛けて議論して、なおかつ精子提供者ともとことん話し合う必要があるからね。
東 多くの男性たちのお話を伺う中で、精子提供に対する考え方も一人ひとり様々なことが分かったよね。
増原 女性の身体を持つ私たちにとっては、勉強になることも多かったです。中には献血感覚で精子提供を考える人もいる。「こんな僕の精子でよければ」と、人助けとして提供する。でも生まれる子どもにはパパとは呼ばれたくないし、父親だという感覚は全然ない。
東 その一方で、精子を提供する以上、自分の子どもが生まれてくるんだと強く感じている人もいたね。
増原 いろんな人と話してみて、「私は精子を持っている人の考え方が全然分かっていなかった」と本当に思いました。
東 私は、卵子提供と精子提供は随分違う問題だとも感じました。女性の場合、1泊以上の入院をして麻酔を掛けて手術して卵子を取り出す必要があり、体にも負担があります。卵子の数には限りがありますが、精子は日々生産される、ということもやはり大きな違い。女性が卵子提供を考える時、「献血感覚」とはやはり思わないのではないでしょうか。卵子提供と精子提供は、同じように見えて大きな差があるんだな、と感じましたね。
法律上は他人という厳しいハードル
――家庭を持つ上で最も難しいと感じることは何ですか?東 同性カップルにとっての最大の問題はやはり法律面です。妊娠・出産のバイオロジカルな部分では、今までお話しした通りの方法で解決できるんです。子どもを授かるか授からないかは、異性カップルでも不妊で悩む方々は多いですし、私たちばかりが苦労しているとは考えていません。それに、そもそもゲイカップルの方が、子どもを持ちたくても自分自身で妊娠することができませんから、より大変でしょうし……。
増原 レズビアンカップルで子どもを産み育てている人たちを、私たちは20~30組は知っています。ロールモデルが既に数多くいるんです。その一方で、代理母出産で子どもを授かり、子育てをしているゲイカップルにはまだ日本では会ったことがありません。彼らの悩みは深いと思います。
東 法律面での重要課題は、具体的には共同親権です。私たちは共同親権を持ちたいと思っていますが、現状では無理なんです。
増原 まず私が子どもを出産できたとすると、私とその子の間には当然ながら自動的に親子関係が発生します。しかし小雪ちゃんとその子は他人のままです。また、精子提供者の男性と私が婚姻するわけではないので、子どもは非嫡出子となります。
東 男性には認知をしてもらわない方針で考えていて、それは、相続が発生するのを避けるためです。
増原 ですから私は非嫡出子の子どもを持つシングルマザーという枠組みの中に入ることになります。
東 裕子さんの産んだ子どもは私たち二人の子どもなのですが、私自身がその子と法律上は他人である、ということが一番問題です。子どもの立場が不安定になってしまいます。
増原 もしも私が先に死んでしまったら、子どもはどうなってしまうのだろう? 小雪ちゃんと引き離されてしまうのだろうか? それがとても不安です。でき得る限り、公正証書などで自衛手段を取るしかないと考えています。ところで、2013年の冬にある興味深い判決が出ましたね。FTM(生まれたときの身体は女性であるが性自認が男性)の方が女性と結婚し、第三者の精子提供によるAID(非配偶者間人工授精)で子どもを設けたのですが、そのFTMの男性が父親として認められたのです。FTMの方ですから生物学上はもともと女性。でも戸籍を男性に変えている。つまり、そのカップルの間に精子がないことは明らかなのですが、戸籍上は男女なので、婚姻関係が認められ、父親としても認められたということなんです。
増原 私たちの場合は二人とも女性として生きていて、レズビアンカップルであることをカミングアウトしている。私たちは同性カップルだから、結婚できず、親権の問題の解決が難しい。
LGBT
【L】レズビアン(女性同性愛者)、【G】ゲイ(男性同性愛者)、【B】バイセクシュアル(両性愛者)、【T】トランスジェンダー(生まれた時に法律的、社会的に割り当てられた性別にとらわれない性別のあり方を持つ人。性同一性障害を含む)の頭文字をとった単語で、セクシュアル・マイノリティー(性的少数者)の総称の一つ。
当別養子縁組
子どもの利益を図ることを目的に、子どもと実親の親族関係を終了させ、法律上、養親の実子に準じた扱いとする養子縁組制度。民法が定める養子縁組には、養親より年少であれば養子の年齢を問わない「普通養子」と、原則として6歳児未満を対象とした「特別養子」の二つがある。普通養子の場合、実親との親族関係は続き、戸籍には「養子」「養女」と記される。一方、特別養子の場合は「長男」「長女」のように記載され、続柄からは養親の実子と区別がつかない。特別養子縁組が成立する要件には、実親による養育が困難で、かつ「夫婦共同による縁組」「夫婦の一方が25歳以上(他方は20歳以上)」「養子となる者が6歳未満(8歳未満までの例外あり)」「実親の同意(虐待などがある場合は不要)」などがある。養親の請求に基づき、実際に6カ月以上養育した結果を考慮した上で、家庭裁判所が審判を下す。1987年の民法改正で新設された。