東 つまり、まずは日本でも同性婚が認められるようにならないと、話は進まないんです。
増原 法律を変えていくのは確かに大変なことです。けれど、近年LGBTの当事者たちのカミングアウトが増えています。当事者の顔が見えることが、やはり大切だと思う。その積み重ねが社会を動かし、法律を動かしていくことになるはずだから。一気には変わらないでしょうが、少しずつ前進していけたら、と思います。
東 もう一つ、私が後々のことで気になっているのは、子ども自身が行う認知請求のこと。
増原 そうだね。私たちは精子提供者の男性には、認知をしないでいただくことを決めごとにしようと考えているのですが、とはいえ、子ども自身の権利として認知請求をすることが認められています。
東 私たちが精子提供者の男性に迷惑や負担を掛けたくないと考えていても、子ども自身が生物学上の父親である男性に対し、自分を認知してほしいと請求した場合にはそれを止められません。それが将来的にトラブルを生む可能性はゼロではないのです。ですから、精子提供者の男性にもやはり覚悟を強いてしまう面があります。
増原 問題は山積みではあるのですが、でも、前に進まなければ妊娠も出産もできないので。だから恐れるよりもまずはチャレンジしてみようかなって思っています。
同性カップルに子どもが生まれても、それがフツーの社会に
――お二人で新しい家庭を築いていくことについて、今、率直にどんな気持ちですか?増原 私は特別な気負いもないんですよ。それは今まで通りで、とにかく私たちらしく生きていこうと思っているだけなんです。私たちが願うことは、LGBT当事者に限らず多くの人が望んでいることと共通する部分があると実感していますし、私たちが一歩一歩これからも進んで行くことには意味があるのかな、と思っています。
東 子どもが生まれたら、私たちは公表するつもりです。最初はニュースになるかもしれませんね。こういったことがいつか当たり前になり、報道されない日が来るといいな、と思っています。
増原 私たちは、これまでもいろんなことと闘ってきたので、子どもができて仮にそれで何か大変なことがあったとしても、きっと闘えると思っています。
東 うん。私たちは立ち向かえるってことを、もう知っているから。
増原 そうだね。
東 仲間がいるということ。周りの人たちに私たちの考え方を知ってもらえていること。問題意識を共有したり、理解してもらえたりしていること。私たちに子どもが生まれたら、お祝いをしてくれる人たちが周りにたくさんいること。
増原 それに、万一にっちもさっちもいかなくなったとしても、きっと周りの人が飛んできてくれるって分かっている。
東 こういう連帯感や安心感って、私たちに限らず、どんな人にも必要だよね。セクシュアリティの問題とは別に、子育てに悩む人たちは日本にたくさんいる。異性カップルも、シングルマザーも、シングルファザーも、私たちも、みんなで分かち合っていくべき問題だと思います。昔は、完璧にならなきゃという思いが私は強過ぎたけれど、最近変わってきたんです。たくさんの人に助けてもらえるような関係性を築いていく方が、ずっと大事なんだって。何かあれば助け合えるつながりを持っていることが、新しい家族を作るためにも必要だと思います。
増原 私たちはお母さんが二人いる家庭になるわけだから、例えば息子が生まれたとして、子どもが思春期になったときに気軽に相談できるような男性の先輩やお兄さん、おじさんのような存在もいてほしいよね。
東 私たち親に相談できないことも話せる大人が周りにたくさんいてくれるのが理想だね。
増原 そう。そしてそこに血のつながりなんて全く関係ない。
東 信頼関係があって、尊敬できて、安心できる多くの人たちと関わる中で育ってほしい。
増原 関わる人々が多様で大勢であるほどいい。同性カップルの両親の元で育てるというより、社会で育てるというのが理想的かな。その中には男性も女性もいるし、トランスジェンダーの人たちもいるし、いろんな存在に触れながら成長していくことが、とても大事なんじゃないかな、って思います。
LGBT
【L】レズビアン(女性同性愛者)、【G】ゲイ(男性同性愛者)、【B】バイセクシュアル(両性愛者)、【T】トランスジェンダー(生まれた時に法律的、社会的に割り当てられた性別にとらわれない性別のあり方を持つ人。性同一性障害を含む)の頭文字をとった単語で、セクシュアル・マイノリティー(性的少数者)の総称の一つ。
当別養子縁組
子どもの利益を図ることを目的に、子どもと実親の親族関係を終了させ、法律上、養親の実子に準じた扱いとする養子縁組制度。民法が定める養子縁組には、養親より年少であれば養子の年齢を問わない「普通養子」と、原則として6歳児未満を対象とした「特別養子」の二つがある。普通養子の場合、実親との親族関係は続き、戸籍には「養子」「養女」と記される。一方、特別養子の場合は「長男」「長女」のように記載され、続柄からは養親の実子と区別がつかない。特別養子縁組が成立する要件には、実親による養育が困難で、かつ「夫婦共同による縁組」「夫婦の一方が25歳以上(他方は20歳以上)」「養子となる者が6歳未満(8歳未満までの例外あり)」「実親の同意(虐待などがある場合は不要)」などがある。養親の請求に基づき、実際に6カ月以上養育した結果を考慮した上で、家庭裁判所が審判を下す。1987年の民法改正で新設された。