――ドキュメンタリーがお好きなんですか?
東 大好きです! 今まで上映された作品の中で好きなものも、ドキュメンタリーが多いんです。
たとえば第23回(14年)で上映された『アゲンスト8』(原題「THE CASE AGAINST 8」。映画祭での上映後、『ジェンダー・マリアージュ 全米を揺るがした同性婚裁判』の邦題で公開された)。同性婚が合法となった直後のカリフォルニア州で、08年に州憲法修正案「提案8号」が通過して、同性婚が再び禁止されました。この「提案8号」は人権侵害だと、2組の同性カップルが州を提訴した。その一部始終が描かれています。
当事者が声を上げるのは、たいへんな勇気のいることです。それでもこれは正しいことだ、絶対に社会にとってよいことだと信じる信念や、震えながら証言をしている姿や、弁護士さんの苦労や周囲の人がサポートする様子にも感動して、胸が熱くなりました。こんなにがんばっている人たちがいるんだ、こんな苦労があって社会を変えてきてくれたんだ、あぁ、日本もこんなふうになったらいいな、とイメージしながら見ました。
その後、15年に渋谷区で同性パートナーシップ条例が可決されたとき、また同年11月にパートナーシップ証明書が発行されたとき、裕子さんと私も渋谷区役所の前で喜びあったり、会見をしたりしたんですね。それがちょっとだけ『アゲンスト8』と重なるようなうれしさもありました。まだ同性婚が法的に認められていない日本の今の状況と似ていますから、少し先を行っている人たちを見て学べることがたくさんあったし、自分もがんばっていくんだ、という力をもらった、私にとって大きな作品です。
第20回(11年)で上映された『シェリー・ライト カントリーシンガーの告白』も大好きです。アメリカ人のカントリー歌手、シェリー・ライトが2010年に同性愛者であることをカミングアウトしたんですけど、彼女が暮らしているのは同性愛への偏見が根強い保守的な地域で、その苦悩や葛藤が描かれています。
私はやはり女性が主人公の作品のほうが感情移入しやすいので、女性の人権がテーマになっている映画は特に好きです。日本でレズビアンであることをカミングアウトして生きている女性は少ないですから、自分がどんなふうに生きていきたいかを考えるロールモデル、憧れの女性像を映画の中に見つけてきたのかもしれません。
『アゲンスト8』は邦題でDVDにもなっています。
――映画祭にこられない方のために、DVDでも見られるおすすめの映画をもう少し教えていただけますか?
東 たくさんあって悩んでしまいます。有名なところでは、ミュージカルを映画化した『RENT/レント』(05年)、映画賞もたくさん取って話題になった『チョコレートドーナツ』(12年)、ケイト・ブランシェット主演の『キャロル』(15年)などを挙げたいですね。
ショーン・ペン主演の『ミルク』(08年)や、ゴールデングローブ賞作品賞にノミネートされた『パレードへようこそ』(14年)、ジュリアン・ムーア主演の『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』(15年)からは、セクシュアル・マイノリティーの歴史を学ぶことができます。
邦画だと、田辺誠一さんや高橋和也さんが出演している『ハッシュ!』(01年)や、17年2月に公開されたばかりでDVDはまだ発売されていませんが、生田斗真さんが主演して話題になった『彼らが本気で編むときは、』が特に好きです。これだけすぐに思い浮かぶくらい、最近はいい作品がたくさんありますね。
私が高校生の頃は、LGBTがテーマの映画には悲しいものが多かったような印象があります。もちろん『ブロークバック・マウンテン』(05年)のように、悲劇的な映画もあっていいんですけど、この5年くらいでトランスジェンダーの話やLGBTの家族の話など、さまざまな描かれ方の作品が出てきて、それはすばらしいことだなと思います。
ぜひ、会場で会いましょう!
東 「レインボー・リール東京」は、本当に面白い作品がそろっているし、とても楽しい、ハッピーなお祭りです。当事者の方だけでなく、今まで来たことのなかった方も、友達同士で、もちろんおひとりででも、気軽に足を運んでほしい。それから普段はLGBTであることを明かさずに生活している方は、「この映画祭に行ったら当事者だと思われるんじゃないか」と不安に思われるかもしれませんが、全然そんなことないですよ。映画が好きな人がたくさん来るし、LGBTを応援する人たちもたくさん来る映画祭ですから、会場にいらしたらきっと励まされます。会場もロビーもあったかいのがこの映画祭の特徴です。
運営のボランティアに参加するのもおすすめです。場内整理やチケットのもぎり、英語ができる人は英語の案内。会場の飾りつけや、上映プログラムの進行のサポート、写真や動画で映画祭を記録する係などいろいろなお手伝いができます。このボランティアで友達ができたという声もよく聞きます(編集部注:2017年の募集は終了しました)。
私も毎年、この映画祭に行くとすごくうれしい気持ちになって、エネルギーをもらっています。四半世紀を超えたからこそ、これからもっとたくさんの方が垣根なく、みんなで楽しめる映画祭として続いていってほしいですね。
LGBT
【L】レズビアン(女性同性愛者)、【G】ゲイ(男性同性愛者)、【B】バイセクシュアル(両性愛者)、【T】トランスジェンダー(生まれた時に法律的、社会的に割り当てられた性別にとらわれない性別のあり方を持つ人。性同一性障害を含む)の頭文字をとった単語で、セクシュアル・マイノリティー(性的少数者)の総称の一つ。
同性パートナーシップ条例
正式名称は「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」。男女平等や、性別にとらわれない多様な個人の尊重などを目的に制定された東京都渋谷区の条例。2015年3月31日に同区議会で可決、翌月1日施行。条例では、LGBTと呼ばれる、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーなど性的マイノリティーの人権尊重が掲げられ、同性のカップルを「結婚に相当する関係」と認める「パートナーシップ証明書」を発行することが定められている。