第7戦、伸るか反るかの大博打!
そして迎えた第7戦ラウジッツ(9月16~17日)。この時点でポイントランキング4位の室屋は、自分に残された年間総合優勝への「わずかなチャンス」をこじ開けようと、大胆な賭けに打って出る。それは「ラウンドオブ14」をわざと遅いタイムで飛ぶ、という奇策!
次の「ラウンドオブ8」では「ラウンドオブ14」のタイム順に「1位vs.8位」「2位vs.7位」……という組み合わせで対戦する。そこで「ラウンドオブ14」を勝ち抜ける範囲で遅く飛び、次の「ラウンドオブ8」でランキング上位につけるライバルと直接対戦。「ファイナル4」に進むライバルを一人でも少なくしようというのだが、1000分の1秒を争うエアレースでは無謀ともいえる作戦だった。
しかしこの奇策がピタリと当たり「ラウンドオブ14」を6位のタイムで勝ち上がった室屋は、続く「ラウンドオブ8」でポイントランキング3位のチャンブリスと対戦して勝利。
「ここが最大の勝負どころ、勝たなければ意味がない……と、腹をくくった」と語る室屋は、「ファイナル4」でも素晴らしいフライトを見せ、何と今季3勝目をマーク! 2位には室屋と同期の09年デビュー組で仲のいい、オーストラリアのマット・ホール(46歳)が入り、ライバルのソンカは痛恨の3位だ!
「マットが『ファイナル4』でいいタイムを出し、2位に入ってくれたのは大きい。マットのアシストに感謝ですね」とレース後の室屋。残るは最終戦インディアナポリスのみ。その視界には再びハッキリと「年間総合優勝」の姿が映し出されていた。
運命の最終フライトへ
レッドブル・エアレース17年シーズン最終戦インディアナポリス。強風は収まらず、パイロンが大きく揺れる中、「ファイナル4」が始まった。1番手、青とグリーンのカラーリングが美しい室屋の機体がゆっくりと滑走路から浮き上がり、スタートゲートへと加速してゆく……。
「アスリートがよく『ゾーン』に入ったという表現をしますが、最後のフライトはまさにそんな感じでしたね。緊張感はそれほどないのに、感覚だけは研ぎ澄まされていて、難しいコンディションだったのに、体が自動で動くように自然に軽く飛ぶことができた」と「ファイナル4」を振り返る。
「普通に飛んで普通に帰ってきたら、とんでもないタイムが出ていた」という、その言葉通り、1分3秒026のコースレコードという圧倒的なタイムをマークした室屋は、2位以下を2秒以上も引き離す圧勝で今季4勝目をマーク! 一方、「ファイナル4」の最後に飛んだソンカは室屋より4秒以上も遅い、1分7秒280で失意の4位に終わり、室屋が4ポイント差でソンカを逆転して悲願の年間総合優勝が決定! レッドブル・エアレース初の日本人世界チャンピオンが誕生したのだ。
ワールドチャンピオンシップポイント
レッドブル・エアレースでは、8試合それぞれの順位に応じてポイントが与えられる。
1~10位は上から順に15、12、9、7、6、5、4、3、2、1ポイント、11~14位は0ポイント。
パイロン
レッドブル・エアレースで設置される、コースを形作る布製の巨大な円錐形(高さ25メートル)の標識。特殊な繊維を使用して空気で膨らませており、翼などが接触した場合も機体が損傷しないように作られている。
ラウンドオブ14
決勝日の第1回戦。予選タイムに基づく組み合わせで、14人のパイロットが7組に分かれて1対1でタイムを競う。
インコレクトレベル・フライング
レッドブル・エアレースのルールの一つで、エアゲート通過時に機体が水平から10度以上傾いてしまうこと。1回につき2秒が飛行タイムに加算される。
パイロンヒット
レッドブル・エアレースのルールの一つで、パイロンに機体が接触してしまうこと。1回につき3秒が飛行タイムに加算され、3回の接触でフライト無効(失格)となる。
ラウンドオブ8
決勝日の第2回戦で、準決勝。「ラウンドオブ14」の勝者7人と、敗者のうち最速タイムを出した1人の計8人が4組に分かれて1対1でタイムを競う。
敗者復活
「ラウンドオブ14」の敗者のうち、最高タイムを記録した1人が準決勝の「ラウンドオブ8」に進める。
オーバーG
レッドブル・エアレースのルールの一つで、飛行中の機体にかかる重力加速度が、安全のために設けられている規定の上限の10Gを超えてしまうこと。フライト無効(失格)となる。
エントリー速度違反
レッドブル・エアレースのルールの一つで、スタートゲートを通過する際、規定の速度を超過してしまうこと。1.99ノット超過までは1秒がタイムに加算され、2ノット以上超過するとフライト無効(失格)となる。