南スーダンの人々を尊重し、彼らの未来を願い、自衛隊員を労う気持ちが本当にあるのなら、悪い冗談のようなやっつけ仕事は慎んでほしい。
日本政府公認「ヘンテコ地図」②“外交”編
地図のレベルでは外務省も負けていない。外務省の公式報告書『外交青書』では他国領土の改竄などお手の物である。例えば、2018年版の『外交青書』の108ページに「シリア全図」という地図が掲載されている。しかし、その「全図」には南西部クナイトラ県が含まれておらず、イスラエル領として描画されている。シリア政府に断りもなく割譲するとは神のごとき采配だ。しかもよりによってイスラエルに。
シリアはまだ一部領土の割譲で済んだが、更に同情を禁じえないのが2006年に日本政府が独立承認したはずのモンテネグロ。2018年版の『外交青書』では4枚の地図で存在を抹消されている。『防衛白書』は『防衛白書』で、国名まで「セルビアモンテネグロ」に(ついでにコソボも併合)。
小国であっても、そこには土地に誇りを持った人々が一所懸命生活を営んでいる。そんな当たり前のことを想像できず、敬意を持って地図一つ満足に作成できない政府に、外交や防衛を任せるのは心もとない。そんな地図で大丈夫か?
そして外務省のヘンテコ地図でこの一枚は外せない。外務省が2007年に刊行した『2007日中文化・スポーツ交流年』というパンフレットの5ページに掲載されている地図だが、この北海道の東側の島々の塗り忘れは最早芸術の域。10年以上たった今も外務省のHPで全世界に公開している度胸も賞賛に値する。
社会に「もう少しマシな地図」を増やすために
2018年版の『防衛白書』には46枚の地図、『外交青書』には28枚の地図が掲載されていたが、うち『防衛白書』で28枚、『外交青書』で15枚に国境線を取り違える、島嶼を抹消するというような政府としてやっちゃいけないレベルの間違いが含まれていた。1枚や2枚のミスはどれだけ注意していても出てしまうことはありえるが、地図の5~6割がどうしようもないレベルというのは、根本的に地図を扱う力量が足りていないと断じざるをえない。
ここでは政府が出している地図を日本代表として取り上げたが、ヘンテコな地図は書籍や新聞、テレビ、学校教科書など、あらゆるところにあふれている。卵と鶏のようなもので、ヘンテコな地図が巷にあふれ、それを人々が正さないから政府の地図もヘンテコになり、政府お墨付きの地図がヘンテコなので、メディアや教科書もそれを複製してヘンテコになる。この連鎖を断ち切りたいと、多くの日本の人が思うのなら(私としては思ってほしい)相応の対応が必要だ。ただ、ここまで地図への理解が低いと、一朝一夕にどうにかなるものではないのも事実。個々人の地図リテラシーを向上させるには地図に関する書籍を熟読してもらうのが一番だが、本稿ではひとまずポイントのみ列記して「日本のヘンテコ地図をどうにかしないと」と思ってくださった読者の方の要望に応えたい。
製作側の心得その1:プロ意識を持つこと
日本では「市民のリテラシー」云々の前に、「プロ」として地図を世に公表しているはずの製作者側が酷すぎる。「最高のものを読者に提示しよう」というプロとして当然の心得を持って地図を作ってもらいたいし、読者も「よい地図を享受することは対価を払っている者の正当な権利」として製作側のお尻を叩いてほしい。地図は文章の添え物ではない。仮に挿絵のような扱いだとしても、一流の作家は挿絵にも細心の注意を払い、最高の挿絵画家と最高の仕事を成し遂げようと努めるではないか。文章の推敲と校正を念入りにする程度には、地図の表現と校正にも配慮をしてほしい。地図上のどの地域にも精一杯生きている人たちがいるという当然の常識と、すべての人を最大限尊重するという良識を持っているのなら、テキトーに島を描いたり国境線を取り違えたりというような傲慢なことはできないはずだ。
製作側の心得その2:安易な「コピペ」はしない
今日のデジタル技術の進展は、長年専門技術者が独占してきた地図を誰でも簡単に描けるように間口を拡大したことも事実で、これは地図の民主化といえる。だから間違いを恐れて地図作成をはじめから断念されると、折角の民主化も不十分になる。