まず、済州島(済州道)の位置が違い形状も雑である。恐らく最初は「半島部分」の材料しかなく、後で描き加えたのだろうが、ここだけ海岸線が雑なので浮いてしまっている。それならまだ許せるが、島自体の位置が違う(現実より北に描かれている)のは話にならない。「図枠」内に収まるように済州島を無理やり描いたようだが、imidasの編集部は「枠」に収めるためになら事実を捻じ曲げてもよいという方針なのだろうか。もっとも、鬱陵島に至っては存在自体が抹消されているので、描かれただけまだマシなのかもしれない。
更に大笑いなのは日本の描写で、もはや哀れみすら感じる。対馬の形がトンデモなのは序の口で、何と「日本の本州を水没させてしまっている」。九州と本州は関門海峡を挟んで1㎞程度しか離れていない事実、山口県の神田岬と釜山は200㎞も離れていない事実など、imidasにとってはどうでもいいことなのだろう。
この地図は、項目の執筆者ではなく編集部等の関係者が作成して添えたものと思われる。執筆者自身の名誉も疑われるような事態だし、またこのような非科学的な地図を堂々と載せている記事全体や、掲載媒体 (imidas)自身にどの程度読む価値があるかも根本的に問われる。imidasは「激動する“今”を読み解くための最新情報知識事典」だそうだが、本当にそうなっているのかは一度虚心に見直してもらいたい。日韓関係、日朝関係が不透明さを増し、健全な情報と冷静な議論、それを伝えるメディアの役割が一層重要になってきている昨今、本来ならimidasがその役割を果たすべきところ、嘆かわしいものである。
imidasは、日本社会にあふれるヘンテコ地図の現状に関心と危機感を持ち、筆者に2度も執筆の機会を与えてくれた。地図に関する意識が非常に高い方に分類される媒体であろう。そのimidasをしてこの惨状であることに鑑みるとき、日本社会全体での地図のいい加減な扱いと、その背後にある科学の成果と「事実」を軽んじる姿勢の蔓延に、絶望しそうになる。それでも、imidasの地図もさすがに今回の指摘を契機に多少はマシになることが期待できるし、朝日新聞の記事(2019年8月17日)によれば『防衛白書』の地図も向後は専門家の監修を受けて改められるとのことである(追記:2019年9月末に公開されたPDF版を確認した限り、多くの地図図版が差し替えられ、内容面でも改善がみられた)。そう考えれば、巷間の地図の誤りを地道に指摘し続ける筆者の努力も全く無駄というわけではないのだと信じたい。
人がいきなり賢くなれないように、社会全体の知的水準が突然向上することもない。一人一人が地道に不断の努力を重ねていくしかない。地図が読めた程度でその人の学術水準が一気に上がるわけではもちろんないが、地図の重要性を理解し、そこに描かれた事実を(その「事実」の描かれ方にみられる政治性への批判的態度を失うことなく)尊重して扱うという姿勢を持つ人が一人でも増えていけば、それが積み重なって社会全体での科学的成果を尊重する姿勢と科学的知見をもとにした合理的な意思決定が普及し、民主主義の進展につながるかもしれない。その可能性を信じる程度には楽観的でありたいものである。
【イミダス編集部より】弊サイトの地図に関しましては、すべて近藤先生のご指摘の通りです。長年にわたり不正確な地図を見過ごし、掲載しておりましたことを猛省しておりますとともに、心からお詫び申し上げます。現在は該当する項目から地図のみ掲載を取り下げ、正確な地図を作成中です。