特に温泉旅館の部屋の中でくす玉を割り中から「浦井様 歓迎ムード」という文言が出てくるシーンにこの癒しが含む過度な形式性と一方通行性がみてとれる。
後半の露天風呂と食事を女将が案内する件(くだり)から、今度は「癒し」という観念に潜む、自足性が浮き彫りになっていく。これは、温泉の食事にはふさわしくないように見えるチキン南蛮定食――漫才中では、「ごはんを食べたいがためだけの」ということで「ガチ飯」と形容されるが――を登場させることによって可能となる。
このボケにどうしてこれほど強度が宿るのか、と考えたとき次のことに思い至る。このボケは逆説的なかたちで、「チキン南蛮定食が癒しでないといえようか」という、クリティカルな問いかけを内密に保持しているのだ。この隠された問いにより、「男性ブランコ」のネタは大衆の癒しに対する根拠の曖昧さを照らし出すことに成功しており、このネタにおけるボケは単なる漫才台本内部の逸脱に留まらず、大衆の手元にもある癒しという観念の解体を行っている。
「男性ブランコ」のこのネタは、かつて暴力的な表現が担っていたものを更新しているように筆者には思える。なんにせよ、彼らのネタから汲み取れる方向性、身近な違和感から反抗の表現を導き出す方法は、お笑いにおいてこれから一層重要になってくるだろう。つまり、暴力的な表現ではできないほど強く、大衆とつながっていく方法として。