不支持理由は「首相に指導力がない」
安倍政権のスタートは順調だった。発足直後の内閣支持率は65.0%(2006年9月26~27日、共同通信世論調査)と、小泉内閣や細川内閣には及ばなかったものの、橋本内閣を上回る過去3番目に高い数字だった。ところが、07年2月3~4日の調査では「支持する」40.3%に対し「支持しない」が44.1%と、初めて不支持率が支持率を上回り、政権存続の“黄信号”といわれる40%ラインぎりぎりにまで急落した。不支持の理由のトップが「首相に指導力がない」となっているのも安倍首相には厳しい評価だ。「官邸のチームワークが悪い」と苦言
安倍首相は、組閣人事では小泉流を踏襲して派閥からの推薦をいっさい受けなかった。その結果、人事構成は「お仲間内閣」的な要素と「論功行賞」的な要素が混在することになった。特に首相官邸は、塩崎恭久官房長官をトップに官房副長官3人、首相補佐官5人と、気心の知れた陣容で固めた。いわば首相官邸の「ホワイトハウス化」を狙ったものだ。ところが、実際には5人の補佐官がてんでんばらばらに自分の担当分野に関してプロジェクトチームや懇談会を立ち上げて動き出したことから混迷が始まった。例えば安倍内閣が2大テーマに掲げた「憲法改正」と並ぶ「教育再生」については、山谷えり子首相補佐官が「教育再生会議」を主宰して教育改革案をまとめているが、本来の教育行政を担当する伊吹文明文部科学相や中教審(中央教育審議会)との間で摩擦がある。最近問題となったのは、塩崎官房長官自ら座長になって2月1日に立ち上げた「成長力底上げ戦略構想チーム」だ。これは、国会で民主党などが「格差社会への取り組みに消極的だ」と指摘したのを受けて格差拡大の防止策を打ち出したものだ。これに対し、自民党の中川昭一政調会長が「官邸がいろいろ組織をつくっているが、分かりにくい。数を減らしたほうがいい」と批判。片山虎之助参院幹事長も「チームワークがよくない」と指摘した。
失言閣僚「辞任せず」に野党が攻勢
もう一つ安倍首相にとって頭の痛い問題がある。失言閣僚が次々に出ることだ。久間章生防衛相のイラク開戦の「判断は間違い」など一連の発言も物議をかもしたが、柳沢伯夫厚生労働相が1月27日の松江市の集会で行った「女性は産む機械」との発言に対しては、野党だけでなく国民からも猛烈な反発を招いた。参院自民党側からは「これでは参院選は戦えない」として、柳沢氏の辞任を求める声が強まったが、官邸側は留任での乗り切りを策した。既に政府税調の本間正明会長と佐田玄一郎行革担当相が辞任しており、「辞任ドミノ」を憂慮したためだ。2月4日の愛知県知事選と北九州市長選の選挙結果が1勝1敗だったことから、辛うじて柳沢厚労相は辞任を免れたものの、国会での野党側の攻勢はいちだんと強まり、安倍政権の苦境は拡大した。
目立つ「党高政低」
こうした状況を見かねて森喜朗元首相が外遊先で「(閣僚には)安倍首相に対する尊敬の念がない」(2月13日)と苦言を呈したが、これに輪を掛けたのが中川秀直幹事長で「閣僚には安倍首相に対する絶対的忠誠、自己犠牲の精神が求められる。首相が入室しても起立できない、私語を慎めない政治家は内閣にふさわしくない」(2月18日、仙台市で)と厳しく批判した。これより前に柳沢厚労相発言をめぐり塩崎官房長官が自民党側に呼びつけられて厳重注意を受けたこともあり、何かと「党高政低」が目立つ。中川発言も、本人としては安倍首相への援護射撃のつもりが、逆に官邸の威信低下を浮き彫りにした。安倍首相としては「官邸のチームワークはいい。ご心配いただく必要はない」(2月16日)との考えだが、政府・与党間がぎくしゃくして政権に好影響をもたらすはずもなく、安倍首相としては人気回復を含めた態勢の立て直しを迫られる事態であることは間違いない。