破綻を未然に防ぐ法律ができた
〈義務づけられた四つの指標〉「新自治体財政再建法」が2007年6月16日に成立した。この法律(正式には「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」)で、自治体は08年度決算から毎年度、四つの「財政健全化比率」指標を公表することが義務づけられた。
四つの指標とは、(1)実質赤字比率(従来の財政再建団体入りの基準となっている)、(2)連結実質赤字比率(新:全会計の実質赤字等の標準財政規模に対する比率)、(3)実質公債費比率(一般会計と公営企業などの連結公債負担比率で、すでに06年度から作成され公表されている)、(4)将来負担比率(新:公営企業、出資法人、第三セクター、将来の退職手当等を含めた普通会計の実質的負債の標準財政規模に対する比率)である。
〈まずはイエローカード〉
この四つの指標のうち、一つでも基準を超えたら、自治体は自ら「財政健全化計画」を定め、議会の議決を得なければならない。いわゆる「イエローカード」=早期是正措置である。その基準は「早期健全化基準」として、別に政令(同法の施行令)および省令で定められる。
〈そしてレッドカード〉
また、(1)から(3)までの指標のどれかが、同じく政令等で定める「再生判断基準」以上の場合、すなわち「レッドカード」が出た場合は、総務大臣との協議と同意のもとに、議会の議決を経て「財政再生計画」を定めなければならない。すなわち、「実質赤字比率」、「連結実質赤字比率」、「実質公債費比率」のいずれかが「再生判断基準」を超える場合である。これが今までの「財政再建計画」にあたる。
〈夕張市の財政再建計画〉
「新自治体財政再建法」は、夕張市の財政再建計画の策定と並行して準備され、その作業と強く関連している。夕張市の財政再建計画(旧法による)は07年3月6日に総務大臣の同意を得て決定され、353億円(標準財政規模44億円の8倍)の赤字額を18年間で解消するとされている。
自治体が破綻する要因は何か
〈投資的事業の失敗〉財政破綻状態になる要因は、まず歳出面での過大投資や不適切な財政運営にあり、次に歳入面にある。
現在の自治体の財政破綻は、多額の起債に依存した投資を続けた結果、公債費負担が過大となっていることに主因がある。一つは、1990年代の国(総務省、農林水産省、建設省など)の景気対策や過疎対策の一環として、地域活性化の名の下にとられた政策に便乗して、投資事業を身の丈を越えて拡大したことである。
もう一つは、過大な計画に基づいて行ってしまった下水道事業のための巨額の起債に対して、その残高の償還にあえぐ自治体が多い。また大都市では、地下鉄や雨水対策という大都市的需要の財政負担に苦しむところが多い。
〈首長と議会の無責任〉
人的かつ政治的な要因も見逃せない。第一には、首長である。財政破綻にいたる過程で、最も大きい役割を果たしてきたのは、ワンマンあるいは独断専行型の首長による長期政権である。
第二には、この首長の動きを制約できない議会である。多くの場合、財政破綻の一方の責任は、事業のチェックができなかった議会にある。
〈国の政策による関与〉
地方自治体の財政破綻を促進するのは、国土開発法やリゾート法など国の政策である。自己責任とは言い切れないような、国の政策の失敗につき合わされた場合が多い。
もちろんこのような国の政策にぶら下がらないで、地域の活性化に成功した例も多い。古くは農政の基本法に逆らって「桃、栗植えてハワイに行こう」を実践した大分県大山町(現・日田市)や、行政に依存しないで日本一の温泉をつくった湯布院温泉観光旅館組合(現・由布市)、などがある。
〈人件費など経常経費の膨張〉
自治体の財政破綻のパターンとしては、人件費など投資的経費ではない要因で破綻にいたる自治体がある。90年代からの大阪府内の都市は、人件費の膨張によって、経常収支比率が軒並み100を超える状況が続いた。これも財政破綻の一つのパターンである。
財政破綻を防ぐために必要なこと
〈破綻予防のチェックポイント〉財政破綻を予防するには、(1)財政健全化比率指標、および経常収支比率などを適正な水準に維持するとともに、公共サービスの品質を向上させるよう行財政改革を進める、(2)財政状況の積極的公開と説明責任を果たす、(3)本格的に計画行政をすすめる、(4)予算編成過程の公開と市民参加の推進、である。
要するに、自治体の財政を市民にオープンにし、市民のコントロールがきくようにすることだ。そのためにはこれらの情報を分析し、評価する市民の力もまた必要とされている。