1人区で民主党が8勝21敗
民主党は参院選を前に、支持率が20%ラインを割り込んだ鳩山由紀夫首相と小沢一郎幹事長のツートップを交代させ、菅直人首相(代表)で選挙戦に臨んだ。政権発足当初、61.5%(6月8、9両日の共同通信世論調査)とV字型回復を示し、「表紙替え」は成功したかに見えた。これを一変させたのが6月17日、マニフェスト(政権公約)発表のさいの菅首相発言。「自民党が提案している10%は一つの参考」と述べ、一気に消費税論争に火がついた。これに伴い菅内閣支持率が10ポイント近く急落。菅首相は低所得者への戻し税や軽減税率導入などに言及して火消しに努めたが、それがまた迷走と受け止められ、選挙戦が進むにつれて民主党の状況は悪化の一途をたどった。
7月11日投票の結果は、民主党44、国民新党0で、与党は大敗を喫した。対して自民党は51を確保して「改選第1党」に躍り出た。「谷垣自民党」が得点を上げたというよりは、「菅民主党」のオウンゴールの感が強い。第3極を目指した新党の中では「渡辺みんなの党」だけが気を吐いて、改選0から10議席を獲得した。
民主党と自民党の明暗を分けたのは、いつもながら「1人区決戦」(29)だった。自民党は07年には6勝23敗と惨敗したのに対し、今回は21勝8敗と民主党を圧倒した。複数区(18、改選数44)はほぼ自民党と民主党が1議席ずつ分け合い、残り議席にみんなの党、公明党が割り込んだ。比例区では民主党16、自民党12と依然、民主党が優位を保ったものの、民主党の選挙戦略・戦術はともに失敗した。
菅首相が力なく続投表明
「選挙結果は真摯(しんし)に受け止め、あらためてスタートラインに立った気持ちで責任ある政権運営を続けていきたい」――力の入らない菅首相の続投宣言だった。翌7月12日、民主党役員会は「結束して菅首相を支える」ことを確認、枝野幸男幹事長も首相から続投を言い渡された。しかし党内では枝野幹事長への風当たりが強い。小沢一郎前幹事長に代わって実戦指揮を執ったものの、肝心の1人区てこ入れが中途半端に終わり、結果を出せなかった。ただ菅首相も枝野氏を切れば、自らの「消費税発言」の責任を問われかねないため、執行部責任論の封印に必死だ。
小沢氏支持グループからは、「これだけ負けて誰も責任を取らないのか」との声が上がっている。小沢氏本人が投開票日以降、雲隠れして7月21日まで姿を見せなかったのも不気味だ。小沢氏の9月代表選での出方が読めないのも、菅首相サイドとしては気がかりだ。もし小沢氏が「小沢チルドレン」を連れて大量脱党などの極端な行動に出ると、一気に政界再編に突入する。これだってないとは言えない深刻さを秘めている。
展望なき民主党の政権運営
菅民主党が直面するもう一つの敵正面は対野党だ。選挙の「数の力」が如実に次の政局を左右する。民主党は非改選含めて106、民主系無所属を加えても107しかない。与党をつくる国民新党の非改選3を入れても110議席と過半数に遠く及ばない。これに対し、野党は計132議席を有する。自民党時代に参院選で過半数割れしたのは過去3回ある。1989年(自民党109)のときは公明、民社両党の協力を仰ぐ「自公民路線」で乗り切った。98年(同103)のときは民主党法案の丸のみを経て自由、公明両党の連立参加による「自自公連立」(後に自公連立)でこなした。2007年(自公両党103)には衆院側で3分の2多数の「再議決権」でしのいだ。
今回、民主党の選択肢は三つしかない。
(1)連立組み替え=みんなの党は非改選含め11なので、連立しても計121と過半数に1足りない。公明党(19)と組めれば過半数となるが、政治とカネなどでの距離は遠い。
(2)大連立=消費税10%で足並みがそろう。民主、自民の2大政党が組めば194となるが、統一地方選から総選挙を展望すると、勢いに乗る自民党が気乗り薄だろう。
(3)部分(パーシャル)連合=法案ごとに賛成、修正など自民党か他の野党の同意を得て政策遂行を行う方式。
これらのなかで(1)と(2)とも、民主党の足元を見透かす自民、公明、みんなの党は乗るまい。そうなると事実上(3)だけが選択肢として残るが、これとて展望があるわけではない。仕方なしの部分連合論であり、行き当たりばったりの政権運営になりかねない。
民主党惨敗の中で茫然自失の菅首相だが、次の打つ手がみえてこない。いったん続投を決めた後、無責任に政権を投げ出した安倍晋三元首相の轍だけは踏んでほしくない。