2012年最大の政局
世界政治では「2012年問題」が言われる。アメリカ、ロシア、フランス、中国、韓国など主要国で首脳の選挙などが実施されるのだ。日本でも野田佳彦民主党代表(首相)と谷垣禎一自由民主党総裁がいずれも9月末で任期切れを迎える。党首交代の有無はまだ見通せないが、2人とも党首選の風圧を感じながら政局に対応せざるを得ない。それが12年政局の最大の問題である衆院解散・総選挙と消費税問題に大きな影を投げかけている。「増税内閣」にまっしぐら
野田政権は11年9月発足時には62.8%(共同通信社世論調査)という、菅内閣発足時以上に高い内閣支持率を得た。しかし社会保障と税の一体改革の素案を決めた12年1月の時点では35.7%にまで低下。支持率は毎月下がり続け、野田内閣が何かをするたびにマイナス点がつく状況だ。この間、野田内閣の実績は、TPP(環太平洋経済連携協定)交渉への参加表明、11年度第3次補正予算と復興増税法の成立、福島第一原子力発電所事故の収束宣言くらいだが、どれも評価されていないということだ。
「どじょう内閣」を自認したように、泥くさく、評判の悪いことにも真正面から取り組んできたことは事実だ。社会保障と税の一体改革の絡みで消費税増税案を決めたのも、不人気となることを承知で下した決断だ。「素案」を年内に決めたいとしていたが、党内の強い反対論があるなかで、野田首相は「2014年4月に8%」「15年10月に10%」と当初案から半年先延ばしする案を提示、党側の了承にこぎつけた。年末ぎりぎりの12月29日、公約を辛うじてクリアした。復興増税と併せると、野田内閣は「増税内閣」とも言えそうだ。
野田首相は「野党に対してはやるべきことはやって、やり抜いて、民意を問うことをはっきり宣言したい」と述べ、消費税増税法案の成立後でなければ衆院解散・総選挙に踏み切らない意向を鮮明にしている。
早期解散で突っ張る自民党
これに対し自民党の谷垣禎一総裁は12年1月22日の自民党大会で、「一刻も早く衆院の解散・総選挙に追い込んで政権を奪回しなければならない」と消費税法案の採決前の解散を求める考えを強調した。09年総選挙で落選した議員たちは資金面からも精神面からも苦しくなっており、谷垣総裁はこうした面からも早期解散論を声高に叫ばざるを得ないのだ。野田政権は、消費税引き上げで「素案」を作ったあと、次のステップとして「与野党協議」を想定。1月19日、民主党は与野党幹事長会談を開き、野党に対して消費税に関する与野党協議を持ちかけたが、自民党など野党は拒否した。
これには森喜朗元首相のように「自民党も賛成だと打って出たらよい」とする考えがある。そもそも自民党は先に国会に提出した財政健全化責任法案の中で、消費税増税に関して「政府が作成した素案について、党派を超えた国会議員により構成される会議を設置し、国民的視点から検討する」ことを求めていた。理屈通りなら、与野党協議に応じてしかるべきところだが、早期解散に追い込むため、徹底した対決姿勢を打ち出している。
危機は3・6・9の月に訪れる
当面は野田首相と谷垣総裁の主張はどこまでも平行線だ。果たして接点は見いだせるのか。野田首相は政治日程として、3月中には消費税増税法案を国会に提出することを公言している。そのシナリオは、野党が1月に与野党協議に乗ってきて、1、2カ月の話し合いで結論が得られれば「大綱」と「法案」を作る算段だった。しかし自民、公明両党の頑なな拒否姿勢が続く状況では、シナリオの変更が必要だ。
結局、政府・民主党は単独で大綱と法案を作って、「3月中の国会提出」の公約を果たすしかない。このときの難関は野党よりも民主党内だ。小沢一郎元代表に近い議員たちが消費税増税法案に強く反対するのは必至だ。ただ小沢氏は4月に判決を迎えるため、思い切った行動に出られないとの見方もある。とはいえ与党内をまとめられなければ野田首相はピンチに立たされる。それが「3月危機」と言われるゆえんだ。
消費税増税法案を提出できたとして、自民党は「国会審議で正々堂々と議論しよう」(石原伸晃幹事長)と言うが、法案審議が順調に行く保証などなく、消費税法案はたなざらしとなって6月会期末を迎えることになりかねない。消費税法案は廃案か継続かという二者択一を迫られる。内閣不信任案も併せて提出される。不信任案には小沢氏に近いグループが賛成する可能性もある。これが「6月危機」だ。そこで野田首相が谷垣総裁と直談判して、消費税法案を成立させる代わりに、衆院解散を約束することも想定される。「話し合い解散」となる。
これをしのぎ切っても9月末には野田民主党代表、谷垣自民党総裁とも任期切れを迎える。民主党代表選には4月判決で無罪だった場合には小沢氏が挑戦してくるかもしれない。代表再選が保証されておらず、代表交代による首相交代となれば「9月危機」が現実となる。
ただ大変なのは谷垣氏の方だ。9月総裁選まで衆院解散に追い込めなければ、総裁交代を求める声が強まるのは必至だ。石原幹事長と石破茂前政調会長の「石―石」ラインが谷垣氏に挑戦しようとしており、谷垣総裁にも「9月危機」が訪れる。