輸入を誘発する私たちの食生活構造
最近、中国製の輸入食品の問題が頻発している。まず、その背景を検討しよう。日本人は、年間約80兆円のお金を飲食費に費やしている。その構成割合をみると、加工品が52%、外食29%、生鮮品19%である。加工品と外食への支払い額割合の合計の81%が「食の外部化」の指標であるが、それは以前から拡大しつつあり、今後も拡大が予想される。食の外部化に伴い、輸入が増加する。理由は、一般に加工品業界や外食業界は、安い輸入原材料を利用する傾向があるからである。私たちの食の外部化の拡大が、食料輸入を誘発し、その中に問題のある食料が含まれる危険性が高くなっている。
低下する日本の食料自給率
日本の食料自給率(カロリーベース)は、1960年の79%から毎年低下し、2006年には39%に低下した。政府は45%に引き上げる計画を立てているものの、逆に低下している。私たちは、海外から輸入した食料に依存して生きている。食料の輸入先をみると、近年、中国の台頭が著しい。1992年から2005年に、農産物輸入額は、約4兆円から4.8兆円に増加しているが、その増加額の40%は中国の寄与によるものである。中国からの輸入食料品の中に、問題のあるものが含まれており、それが大きな社会問題になっている。
野菜の国内生産量減少と輸入量増加
野菜を具体的な事例として検討してみよう。日本の野菜の生産量は、1980年ごろから減少し始め、逆に輸入量が増加し始めた。2002~03年に、中国から輸入された野菜の中に農薬残留基準を超えるものが発見され、社会問題になった。その影響で一時的に中国からの野菜輸入量が減少したが、また増加する傾向にある。日本では06年から、農薬などのポジティブリスト制を導入し、国産に対してと同様に、輸入品に対しても基準を厳しくしたことが問題を頻発させる一因になっている。()
中国の対日食品輸出企業は約6200社
日本が輸入する生鮮野菜のうち、中国からが6割を占めている。中国には、冷凍野菜や漬物などの加工品も含め、日本向けに輸出する食品企業が約6200社ある。日系食品企業の多くが中国に食品の現地法人を設けており、中国に進出し、安価な労働力と豊富な農水産物や畜産物をいかして、日本市場向け加工食品の生産を拡大している。中国にとって日本は最大の農産物輸出相手国である。中国における日本向けの食品企業をみると、4つのタイプがある。①日系企業と中国企業の出資による「合弁」企業、②日本企業100%出資による「独資」企業、③中国企業による出資ではあるが、日本企業が栽培技術と生産資材等を提供する「合作」企業、④純粋な中国企業、に大別される。④のタイプの企業には、日本のポジティブリスト制への移行などの衛生基準の変更などの情報が十分に伝わっておらず、問題を起こす可能性が高い。
中国における野菜の認証制度
日本では農薬や化学肥料の使用を制限した安全な農産物の認証制度に関して、①有機農産物、②特別栽培農産物、③エコファーマー、の3つがある。同様に中国では、①有機食品、②緑色食品、③無公害農産品の3つの認証制度がある。()日中両国において、このように複数の認証制度が同時に存在することは、制度を複雑にしているようにみえる。しかし、農薬を全く使わない有機農産物の生産への急激な転換は、技術的に困難であり、取り組みやすいレベルの農法から、徐々に困難な農法に生産を移行させる方が受け入れやすい。また、消費者の所得水準には幅があるので、高価な有機農産物だけではなく、比較的安価な物も提供する必要がある。
中国では、経済発展に伴い、食品汚染・環境汚染・農薬残留などの問題がますます深刻になっていた。そのため、主に政府主導で、1990年に安全な農産物生産のプロジェクトが実施された。しかし、高温多湿の中国では病虫害が発生しやすいので、一気に、一切の農薬や化学肥料を否定することは不可能であった。
二律背反の増産と安全性確保
また、不足しがちな食料を確保するためにも、一切の農薬や化学肥料を使用できない有機農業ではなく、一般生産者に受け入れられやすく、取り組みも比較的容易な緑色食品と無公害農産品が栽培されている。農薬や化学肥料の利用による農産物の増産と安全性確保は、二律背反の関係にある。従前から食料が不足しがちな中国では、農産物の増産の方が重視されてきた。また、中国において有機食品は一般食品より50%から数倍価格が高く、緑色食品でも一般食品より10~20%高い。そのため、低所得者は高い安全な農産物を購入することが困難であり、安全な農産物の生産が普及しない要因になっていた。
以上のような理由により、生産された必ずしも安全性が高くない農産物が日本に輸入され問題を引き起こしている。しかし、今後は、2008年のオリンピックを控え、また、中国国民の健康の維持増進の視点から、安全性の高い農産物の生産と流通の取り組みが進められることを期待したい。
ポジティブリスト制
(positive list system)
農作物や肉、魚などの食品への残留農薬など、全農薬類(799品目)を規制の対象とし、一定基準を超える残留のある農作物・食品の流通・販売を禁止すること。