問題がわからないから、問題点がわからん!
文部科学省によると、PISA(ピザ)は「15歳児が知識・技能を実生活の様々な場面で直面する課題にどれだけ活用できるかを評価する調査」という。PISAでは、2000年から3年ごとに「読解力」、「数学的リテラシー」、「科学的リテラシー」の3分野について調査し、毎回そのうちの一つを重点的に調査する。今回発表になったのは、06年に実施されたもので、「科学的リテラシー」が中心分野となっている。その「科学的リテラシー」で、日本は前回の2位から今回は6位へと順位を下げた。()だが、それでも文科省は「上位グループ」と評価している。「読解力」でも前回14位から15位に順位を下げ、OECD加盟国内でも平均と同程度になってしまった。()また、「数学的リテラシー」は、00年の1位から03年では6位、そして今回は10位である。()ここでも、前回の結果発表のとき、文科省は「トップグループの中にいる」と主張していたが、今回は「台湾、フィンランド、香港、韓国との有意の差」を認めざるを得なくなった。
実は、今回の数学の問題は全く発表されていない。「次回も使って、変化を調べる」という理由であるが、工夫すれば半分は発表できる。いや、すべきである。日本の生徒は「量の問題や思考問題が苦手」で、「無答が多かった」と言われている。しかし、問題との関連も重要で、それが無いと原因を確定できず、生徒への指導方法を提言できないのである。
アンケートでの「モチベーション」には偏りがある!
文科省をはじめ、教育関係者がもう一つ大きな問題にしているのは、相変わらずの子どもたちのモチベーションの低さである。たとえば、「自分に役立つので理科の勉強をしている」はOECD加盟国平均が67%に対し、日本は42%、「理科の勉強はやりがいがある」はOECD加盟国平均が62%に対し、日本は41%、等々ほとんどの項目で日本は最下位だった(「実験が少ない」などについては、削減された時間数に原因がある)。だが、これについては、アンケート調査を受ける際の日本の子どもの特質もあることを考慮されたい。以前、TIMSS(やはり国際調査で、PISAが社会への応用力とするなら、こちらは基本の学力調査)で、「あなたは数学の成績が良いか」と問うたところ、アメリカの生徒の34%が「大変良い」と答え、その集団の平均点は543点だった。その点数は、日本の「悪い」と答えた45%の生徒の集団の平均点577点を下回った、という例もある。
いずれにしても、子供のモチベーションの向上には、周りの大人たちが「理科や数学の勉強が自分の将来に役立つ」と、折に触れて言い聞かせるのが何よりの良薬である。
現場の教師たちは奮闘している!
お隣の韓国は「科学的リテラシー」では00年1位から06年11位に下がったものの、「数学的リテラシー」は00年が2位、03年が3位、今回は4位と健闘し、「読解力」では、00年6位から03年2位、そしてとうとう1位になった。これについて、「韓国では大学入試で論述の比重が高くなったことが大きい」との分析もある。これに反して、日本の子どもの「読解力」が下がった大きな原因は、「世界一少ない読書量」である。これに、低モチベーションという悪条件も加わりながら、それでも15位でいられるのは、現場の教師たちが健闘しているためである。
「数学的リテラシー」の分野でも、繰り返しの計算練習などで、落ちこぼれを少しでも減らそうとした努力が、得点最下位にあるグループの割合を4.7%から3.9%に減らしたといえよう。しかし一方で、成績上位グループの割合が8.3%から4.2%へと半減してしまった。少ない授業時間の中で、多くの時間が計算練習に費やされた副作用かもしれない。
成績下落の原因は明確だ!
今回の順位下落の原因は、文科省自身が「現行学習指導要領で授業時間を減らして内容を厳選した結果」(総括リーダー談:『毎日新聞』)としている。つまり、02年から施行された「ゆとり教育」の影響というわけである。今回のPISAの調査を受けた高校1年生は、02年にゆとり教育で授業時間が20%削減されたときに小学校6年生だった。 小学校6年から中学校3年というと、子どもの感性、論理力、理解力が一番伸びる時期なのである。なお、今回の結果に際して、報道の姿勢にも問題点が指摘できよう。
ある全国紙は、大半が「科学的リテラシー」の結果の紹介でありながら、コメントが「数学的リテラシー」に関するものという不思議な構成になっていた。理科を理解するための数学の力が不十分だから「理科離れ」が起こるということを、担当記者も理解してほしい。
また、今回の結果をもたらした学習指導要領を作った人たちが、他人事のようにコメントしているのも散見される。「これで十分だ」と言い続けてきたある有力者は、全国紙でのコメントで、「これまで日本の学校はPISA型の学習指導をしてこなかった」ことや「台湾など新しい国・地域が参加したこと」が順位の低下の一因とし、さらに「次期学習指導要領などに基づいて勉強していけば、成績は十分取り戻せる」とも語っている。
「新しい国・地域が参加した」と言っても、「数学的リテラシー」で日本より上位の新参加地域は台湾だけなのに6位から10位に下がったこと、さらに6年間で35点もの平均点降下の理由にはならない。また、「成績を取り戻せる」と言っても、それまでの期間に公立学校に通っていた生徒たちに対する責任は、いったいどうしてくれるのだろうか。
未来を担う子どもたちのため!
最下位のグループの成績を上げ、最上位のグループの成績も上げるためには、十分な授業時間と少人数教育が不可欠である。授業時間の確保と少人数教育は行政の仕事であるが、それだけでは学力低下に対処できない。ここでは、家庭の役割も重要であることを認識していただきたい。日本の子どもたちは、家庭学習の時間と読書の時間が、世界で最低レベルなのだ。どんなに教師集団ががんばっても、家でテレビ漬け・ゲーム漬けでは台無しになってしまう。
熱心な教師集団に加え、十分な授業時間と少人数教育、自学自習が可能な質のよい教科書、そして学習を支援する家庭が、日本の将来を担う人材を育てるために必要なのである。