排出したCO2を帳消しにする
現在、人間活動のほとんどすべてが、化石エネルギーの燃焼によるCO2(二酸化炭素)の排出に関連しており、温暖化の原因となっている。だから、何らかの行動でCO2を排出してしまうとき、別なやり方でそれと同じ量のCO2の削減をすれば、「帳消し」されることになり、温暖化の防止につながる。
【例1】昨晩はテレビの電源を消さずに寝込んでしまった。一晩中つけっぱなしにしたので、発電所では石油を燃焼させてCO2を出している。これを帳消しにするため、今日の昼間の移動はいつものタクシーではなく、地下鉄で動くことにすれば、ガソリンから出るCO2が減らせ、昨晩つけっぱなしにした分を「チャラ」にできる。
【例2】結婚式を挙げると、多くの人が遠方から駆けつけ、新幹線や自家用車の利用で二酸化炭素を出す。パーティーの豪華な食べ物も、遠く海外の原料を使っていて、運んで調理するのにエネルギーがかかっており、CO2をどこかで排出している。結婚式のためにこうしたCO2を排出してしまうのは止むを得ないが、このCO2排出量に見合う量を吸収してくれる植林をどこかですれば、カーボンニュートラルな結婚式になって新夫婦の門出に花を添えることができる。ふるさとの土地に自分で植樹するか、それとも誰かにお金を払って、どこかで減らしてもらおうか。
【例3】会社の環境宣言で、自社の活動によるCO2排出を今年は10万tに抑えるという目標を作ったが、どうも1万tオーバーしそうだ。炭素取引市場で1万tの、証券化された排出権を買ってオフセットしよう。
【例4】地域で使用済みてんぷら油を集めて、バイオディーゼル油を作っている。これはバイオマスエネルギーで二酸化炭素を出さないから、軽油の代わりにこれを使用すれば、CO2を減らすことになる。誰か余分なCO2を出してしまって、カーボンオフセットしたい人が、この活動で減らしたCO2を、「帳消し」にするのに使ってくれないか。
カーボンオフセットに向けて動き出したビジネス
温暖化防止の機運が高まってきて、個人や企業が何とかCO2(二酸化炭素)を減らそうという努力をしている。しかし、【例1】のように自分でできることは少なく、【例2】や【例3】のように、他の人に頼んで減らしてもらうことも必要になる。一方で、【例4】のように、ボランタリーにCO2排出削減をしている人たちもいる。そうなると、こういう人たちのための情報交換の場が必要になってくる。その間を取り持つことが業として成立するし、オフセットの需要を喚起したり、それに見合う削減努力の掘り起こしを進めたりなど、新たなカーボンオフセットのビジネスモデルを作ることも必要になってきた。
【例5】情報交換の場:日本では、2008年2月に、カーボンオフセットフォーラム(http://www.j-cof.org)が、環境省の肝煎りでできており、需要者、供給者、仲介者、研究者などに会合やwebで、情報共有の場を提供している。
【例6】関連ビジネス:上記フォーラムの08 年4月立ち上げ会合には、一般企業社会的責任(SCR)関係者、仲介企業、省エネコンサルタント、ボランタリーな削減努力をしているNPO、一般個人など、300人もの、カーボンオフセットに興味を持つ人々が参加し、日本におけるカーボンオフセットが動き始めたことを物語っている。
【例7】ビジネスモデル:08 年正月用にカーボンオフセット年賀ハガキが売り出された。ハガキ代55円のうち、5円はカーボンオフセットするための寄附金に積み立て、国連気候変動枠組条約のもとで、国際的に確かに削減されたと認められ、CO2分の購入に充てられる。その購入分は、日本政府が京都議定書で1990年から2012年 までに、6%削減するとした約束の枠に提供される。この結果、このハガキを買った人は、日本の政府の6%削減約束の履行に貢献したことになる。
カーボンオフセットの課題をどう乗り越えるか?
カーボンオフセットには、まだ多くの課題が残されている。第1の課題は、果たしてそれが、確実なCO2(二酸化炭素)の削減につながるかということにある。その検証は非常に難しい。【例3】や【例7】のように、国際機関(気候変動枠組条約CDM理事会)のもとで検証され証券化した物件だと信用できるが、国内外での植林活動をあつかうとなると、現地での管理が確実にされなければならないし、そのモニターも必要である。
第2の課題は、削減必要量をどのように算定するかである。結婚式の場合、ハネムーンでの排出分を入れるか否か、航空機が出した分をどう数えるか、ライフサイクルアセスメント(LCA)までするか、である。日本カーボンオフセット(www.co-j.jp)では、個人がどれだけCO2を排出しているかの計算サービスをしている。第3の課題は、上記を含めて信用あるビジネスとして確立するかである。
カーボンオフセット、カーボンニュートラルが企業の宣伝だけに使われ、実質の削減がなされなければ、カーボンオフセットという仕組み自身の信用は失墜する。透明な市場をどう作るかが、これからの課題である。
さらに細かくは、たとえば、【例7】のように、国の口座に入れてしまうと、国への貢献にはなるが、諸国の約束枠以上の削減にはつながらない。また、カーボンオフセットには「自分でやらないでカネで解決するのか」という批判もある。
【例1】のように自分で削減するのが基本であることを忘れてはならない。
カーボンニュートラル
(carbon neutral)
事業活動などで生じる二酸化炭素の排出量を、植林や自然エネルギーを導入することで相殺して、限りなくゼロに近づける取り組みのこと。
バイオマスエネルギー
(biomass energy)
バイオマスは、バイオ(bio生物)のマス(mass量)が語源。化石資源を除く生物資源から得られるエネルギーのこと。太陽エネルギーを使い、生物が光合成によって水と二酸化炭素から生成した、木材・紙・動物の死骸やプランクトンなどの有機物を指す。トウモロコシやサトウキビ、生ゴミなど、太陽がある限り生育し循環する再生エネルギーである。植物から作る廃てんぷら油を利用したバイオディーゼルも含まれる。