太陽系の秘境
太陽から約30天文単位(太陽-地球間の平均距離の30倍)離れた海王星の外側は、太陽系の辺境の地だ。そこにある天体を太陽系外縁天体と呼んでいる。15年ほど前は冥王星1個に過ぎなかったが、今では1992 QB1をはじめ、1000個以上も見つかっている。すばる望遠鏡のような大望遠鏡と、微弱光検出装置が登場した成果である。直径は、最大の冥王星で地球の5分の1、他に10分の1程度のものが5個ほど見つかっている(セドナ、エリス、マケマケ、ハウメアなど)。質量は冥王星で地球の1000分の2程度だから、知られている外縁天体を全部合わせても、地球に及ばない。だからもしここに、地球の半分ほどの質量の天体が隠れているとなると、ちょっとした事件である。
外縁天体は3タイプ
軌道の特徴から外縁天体をいくつかに分類することができる。図表1、図表2に軌道の離心率(楕円<だえん>のつぶれ具合)を太陽からの距離(軌道長半径)に対して表してみた。海王星は軌道長半径が30天文単位、離心率は0.01である。図表3は同じく地球の軌道面(黄道面)に対する傾きの分布である。(1)共鳴天体
図中で3:2と記したところに異常集中が見られる。ここは海王星が3回公転する間に、2回公転する距離である。そう思ってみると、4:3、2:1の場所にも集中している。これらは海王星の運動と密接に関連していることから共鳴天体と言われており、冥王星も3:2の共鳴天体である(図表1、図表3の○印)。このように整数比になっていると、海王星に接近することがなく安泰で、現在まで生き残ったのである。
(2)散乱天体
また、離心率の大きな、つぶれた軌道を持つ天体が遠方まで分布している(例はエリス、図表2)。これらは主に海王星によってはじき飛ばされたとみられるので、散乱天体と呼ばれている。 図表1、図表2中の曲線は近日点が海王星の距離になる値で、この曲線に近いところに位置する天体は海王星に接近するか、接近したことがあり、海王星の支配下にある天体と言える。
(3)古典的天体
軌道長半径が40から50天文単位の間には離心率が0.2以下で、通常の惑星に類似した運動をしている一群の天体がある(例はマケマケ)。
これに、分離型とも言うべき一群を加えることもある。海王星とは関係の薄い天体である。
主役は海王星、しかし…
外縁天体の多くが海王星の影響を受けていることは上の特徴から明らかであり、外縁部の盟主は海王星と言えるだろう。しかし、それですべてが説明できるわけではない。たとえば、図表1の古典的天体の分布を見てみよう。軌道長半径が37~47天文単位あたりに集中しているのはなぜだろうか?
37天文単位以下の天体は海王星にはじき飛ばされたとしても、47天文単位以上の遠方の天体が真円軌道ではなく、楕円軌道ばかりとなっているのは海王星の影響だけでは説明できない。しかし、ここにもし惑星Xがあったとしたらどうだろう?
元々、このあたりの天体は真円軌道だったが、未知惑星Xにより軌道が変形し、図表1に見られる分布となったとすればつじつまが合うではないか!
かつて、木星、土星、天王星、海王星などの大型惑星が誕生した頃、惑星Xも海王星の近くで他の微惑星たちとともに形成された。大型惑星が形成された場所は今よりかなり内側で、微惑星は約50天文単位まで黄道面上に整然と分布していた。やがて惑星形成の最終段階に入ると、惑星Xは海王星にはじき飛ばされ、遠日点60~80天文単位で黄道面から10~15°傾いた軌道に投入された。動乱は続く。大型惑星は接近してくる微惑星たちをあるいは内側へ、あるいは外側に、次々と跳ね飛ばし、自らはやや外側へ移動して現在の位置に落ち着いた。一方、惑星Xは最縁部の微惑星を黄道面から引きはがし、跳ね上げ、軌道を変形させてしまった。今、こうしたものが入り混じり、現在のような分布になったのだろう。これが神戸大学の研究結果のエッセンスだ。
今、どこに、どうして…
惑星Xがこのような運命をたどったとすると、その質量は地球の0.3~0.7倍、直径は1万~1万6000kmで、冥王星同様の氷天体と考えられる。現在の軌道は、近日点距離80天文単位以上、軌道長半径100~175天文単位の楕円軌道で、軌道傾斜角は20~40°という。この質量は全外縁天体に匹敵するほどだから、もし、本当に存在するなら惑星Xは第9番目の惑星となるに違いない。冥王星より明るい可能性もあり、検出は時間の問題だろう。なお今のところ、惑星Xは一仮説に過ぎない。外来天体の影響説をはじめ、他にも外縁天体の分布を説明する説が提案されている。神戸大学の研究者はそうした状況を良く把握し、惑星Xの存在に自信をのぞかせつつも、「惑星Xの存在が、これまでの観測結果に矛盾しない」と冷静な構えである。