日本の韓流ブーム
今や、「韓国映画が好き」と言っても、ヘンな人と思われることはないが、10年前なら、かなり変わった人と思われたはずだ。それが、わずか数年で日本人の韓国に対する見方を変えてしまったのが、いわゆる“韓流”だ。ここで改めてその経過をたどってみよう。
2000年、韓国映画「シュリ」が公開され、興行収入18億5000万円のヒットを記録した。ハリウッドの大ヒット作に比べれば小さいが、韓国映画としては空前のヒットだった。そして、映画に続いて、衛星放送のBS、CSで韓国テレビドラマが放送されるようになり、人よりも早くごひいきを見つけたい熱心なファンの間で、徐々に注目を集め始めた。さらに、04年の4月「冬のソナタ」がNHK地上波で放送されると、全国津々浦々の女性の心を揺さぶった。“韓流”は一気に広がり、2005年に日本で公開された韓国映画の興行収入は100億円を超え、韓国映画を見た観客数は推定850万人ほどになる。
これはすごい数字である。ハリウッド映画を除いて、一国で年間観客動員850万人を超えたことは、ジャッキー・チェンが人気だった香港映画でも達成できなかったことである。
ファンになった多くの女性は、夫を家に置き去りにし韓国へ飛んだ。日本の多くの男性は、半ばあきれ、半ば苦々しく、そんな事態を見つめていた。
しかし、良い結果ももたらした。戦後、どんな政治家も果たせなかったほど、日韓の交流を深めたことだ。韓国にまったく関心のなかった日本の女性の、韓国に対する理解が深まった。
韓国の意外な日流ブーム
それでは、韓国での日本映画、日本文化はどのように受け入れられているのだろうか。教科書や靖国問題などでの激しいデモの様子を、テレビのニュースで見ていると、それほど広く受け入れられているとは思わない人も多いはずだ。
ところが、韓国で日本映画を見た韓国人は意外に多い。06年は、日本での韓国映画が下火になったこともあり、実は日本で韓国映画を見た観客より、韓国で日本映画を見た観客の方が多かったのである。
06年は96万人も動員した「日本沈没」を先頭に、「メゾン・ド・ヒミコ」「パッチギ」「NANA」「スウィングガールズ」「リンダリンダリンダ」「ゆれる」「ゲド戦記」「あらしのよるに」「DEATH NOTE」など35本が公開され、300万人を超える観客を集めた。
05年は「ハウルの動く城」1本で300万人超の動員を記録、全体で26本の日本映画が公開され、396万人を動員した。
04年は30本の映画が公開され、271万人と、日本映画は驚くほど多くの人たちに見られている。
韓国で、これほど日本映画が見られていることは、意外と知られていない。
特に、06年、ソウルで最もにぎわう繁華街の明洞(ミョンドン)に、日本のシネカノンが日本映画専門館をオープンしたり、スポンジという輸入配給会社が日本映画を積極的に公開したことが大きな伸びにつながった。
日流を支える世代とは
この背景には、政治意識が高い386世代に続く次世代の、日本のコンテンツへの支持がある。386世代とは1960年代に生まれ、80年代に大学で学んだ30代の世代の略で、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権を支える民主化の申し子である。今や彼らも40代に突入する年代となっている。
彼らは反日を強く意識して育った。しかし、それに続く世代は一人っ子で、豊かな環境のなか、日本の漫画とアニメに囲まれて育った。だから、彼らは日本のコンテンツであろうと、面白ければ受け入れる。
彼らは日本の漫画、アニメだけでなく、村上春樹、吉本ばなな、江國香織、浅田次郎をはじめとする、日本の小説も熱心に読むようになった。その結果、日本のコンテンツは新たな形で受け入れられるようになった。
日本の原作を韓国的味付けで
日本映画が人気と言っても、まだまだ熱心なファンの間での現象である。そこで、韓国の映画プロデューサーたちが考えたことは、日本のアイデアが、より韓国の観客に親しまれるように、日本の原作で映画を作るということだった。
それは“忠武路(チュンムロという韓国の映画会社が集中している町)の日流現象”とまで言われるようになった。
浅田次郎の「ラブ・レター」を原作にした「パイラン」をはじめ、日本のテレビドラマを基にした「私の頭の中の消しゴム」、日本の漫画を原作にした、2004年カンヌ国際映画祭グランプリの「オールド・ボーイ」などが製作され、06年、鈴木由美子原作の漫画「カンナさん大成功です!」を映画化した「美女はつらい」は、観客動員600万人を超え、韓国映画歴代8位のヒットとなった。06年にはこのほかに、金城一紀原作の「Fly,Daddy,Fly」も公開された。
また、07年の新春には、日本ではあまり目立たず終わった映画「シャ乱Qの演歌の花道」(1997)をリメークした「覆面ダロ」が、150万人を超えるヒットを記録した。
そして江國香織原作・松岡錠司監督の「きらきらひかる」、つかこうへい原作・深作欣二監督「蒲田行進曲」、同じくつかこうへい原作の「飛龍伝」、貴志祐介原作・森田芳光監督の「黒い家」などが製作準備中である。
彼らの巧みなところは、日本の原作(小説、漫画、映画、テレビドラマ)の中から、日本では当たっていなくても、韓国人に受けそうな発想のものを見つけだし、そこにコチュジャン味を加えて、見事な韓国風娯楽作に仕立て上げることだ。最近では、韓国映画の10%は日本の原作とまで言われている。
日本の“韓流”ブーム、韓国の“日流”ブームによって、どれほど両国の間の理解が深まったことか。次は、中国に“日流”ブームを起こせば、もっともっと交流は深まるはずだ。