史上初ずくめの大会
アジアのナショナルチームの王座を決める「AFCアジアカップ」の2007年決勝大会開幕が近づいてきた。過去13回、48年にわたって「オリンピック年」に開催されてきたこの大会は、今回から1年早まり、「ワールドカップとオリンピックの中間年」の開催となった。ただし4年に一度というインターバルは今後も続けられる。開催が1年早まったことのほかにも「史上初」がある。共同開催だ。しかも開催国は4つ。インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナム。南北1500kmの間に広がる東南アジア4カ国の首都、ジャカルタ、クアラルンプール、バンコク、ハノイを主舞台に、7月7日から29日までの23日間、全32試合が展開されることになる。
だが、今大会は、ピッチの中で行われるゲームのレベルにおいても、51年になるアジアカップ史上でも特筆すべき大会となるだろう。優勝候補の強豪が、ヨーロッパでプレーする主軸選手を投入してきたからだ()。
ヨーロッパのタレントが集結
D組に入った韓国は、MF朴智星(マンチェスター・ユナイテッド)など数人が故障で欠場するが、イングランドのミドルスブラで活躍するFW李東国の起用を決めた。「国内組」最高の名手であるFW李天秀との前線コンビは破壊力抜群だ。C組のイラン、中国は、それぞれ5人、4人の「ヨーロッパ組」を招集した。なかでもイランは、フランクフルトでこの夏から日本の高原直泰、稲本潤一とチームメートになるMFマハダビキア、ハノーファーのFWハシェミアン、5月までバイエルン・ミュンヘンでプレーしていたMFカリミが並び、強力な攻撃陣を構成している。
同じC組のウズベキスタンは、ディナモ・キエフ(ウクライナ)のFWシャツキフを中心に、国外のクラブで活躍する7選手を招集した。西ヨーロッパのクラブに所属する選手はいないが、このところ急速にレベルが上がっているロシアリーグで活躍している選手もおり、地力はある。
しかしなんといっても豪華なのはD組のオーストラリアだ。06年のワールドカップと同様、チームの大半をヨーロッパのクラブでプレーする選手で固めた。「代表引退」の意向を表明していたFWビドゥカ(ニューカッスル)を翻意させて出場を決意させ、その最高の相棒でもあるFWキューウェル(リバプール)とのコンビで「アジア初制覇」を狙う。
だが日本も負けてはいない。イビチャ・オシム監督は、ヨーロッパでプレーする選手たちにとって貴重なシーズンオフがなくなってしまうことを懸念して「国内組だけで参加する」こともありうると示唆していたが、6月18日に発表された予備登録の30人にはMF中村俊輔(セルティック)とFW高原直泰(フランクフルト)を入れた。それは、彼らふたりがこの大会に日本代表として出場し、オーストラリアやイラン、韓国、中国といったチームを倒してタイトルを獲得したいという大きな意欲をもっていることの証明でもある。
もちろん、ライバルは「ヨーロッパ組」のいるチームだけではない。サウジアラビアを中心とした中東諸国の充実ぶりはこのところ非常に顕著で、日本が1次リーグで対戦するカタールとUAEも決して楽に勝てるチームではないからだ。
「地の不利」との戦い
共同開催国となる東南アジアの4カ国は、「FIFAランキング」のデータでもわかるようにアジアでも「ベスト16」の圏外にいるチームばかり。しかしどこも「ホーム」では無類の強さを発揮することで知られている。とくに近年成長著しいベトナムのホームでの強さは、無視することができない。オーストラリアは、東南アジアの気候に慣れるために開幕の2週間も前からシンガポールでキャンプを行い、万全の態勢で大会に臨む。その他のチームも、準備は万全だ。それに対し、日本は6月30日までJリーグの試合が入っており、その前に数日間の練習はするものの、大会直前にならないと準備ができないのは大きなハンディだ。
高温多湿の東南アジア。決勝トーナメントに入ると、チームは長距離の移動をしながら戦わなければならなくなり、コンディションとしては決して良いとはいえないかもしれない。しかし今回のアジアカップは、間違いなくこれまでで最もハイレベルな大会となるだろう。そのなかで、日本がどこまでオシム監督のサッカーを表現し、また3回連続の優勝に迫れるか、興味は尽きない()。