今日は、そんなペン回しの歴史と現状、魅力を紹介させていただきたい。
最初の流行は70年代? 「浪人回し」と呼ばれた時代……
ペン回しの起源がいつ・どこであったかは定かではないが、日本では戦前から「鉛筆回し」と呼ばれる形で存在していたと言われている。その後、鉛筆よりも回しやすいシャープペンシルの登場により、1970年代に高校生や大学生の間でちょっとしたブームとなったようだ。ただ、今のような技ごとの名前や定義といったものは定まっておらず、地域や個人によってやり方が全く異なっていたという。また「ペン回しをすると浪人する」という噂が囁かれていたこともあり、当時は「浪人回し」という呼ばれ方が一般的であった。この頃のペン回しは、遊びや趣味としてではなく、「手癖」として見られる面が強かった。インターネットでつながった仲間たち
70年代のブームが下火になった後、ペン回しが再び注目を集めるきっかけを作ったのはインターネットだった。1997年、愛知の中学校教師である近藤英章さんが、ペン回しについてまとめたウェブサイト「私のペン回しの歴史」を開設。これを機に、それまでバラバラに活動していた日本各地の愛好家たちが、インターネットを介してつながりを持つようになった。この頃から、ペン回しは「手癖」から「遊び」に変わり始める。その後、一時、停滞期があったものの、海外のペンスピナー(ペン回しの愛好家)が作ったペン回しの映像作品に影響を受けた若い世代が次々とウェブサイトやブログを立ち上げ、国内でも盛り上がりを取り戻す。この頃までに、技の名前や系統などのペン回しの用語も徐々に定まり、2007年初めには、ウェブ上で世界大会が行われるまでに至った。
外の世界へ! 「日本ペン回し協会」設立
このようにウェブ上では世界的な広がりを持ち始めたペン回しだったが、これはあくまでスピナー同士での、言わば内輪の盛り上がりに過ぎなかった。ペン回しを知らない人にも、遊びとしてのペン回しの魅力を伝えたい。そんな思いを持った有志が集まり、07年7月、日本ペン回し協会(http://www.pen-spinning.org/)を設立した。以降、テレビ・新聞などの多数のメディアの取材を受け、積極的にペン回しの普及活動を進めてきた。また、同年12月には足立区の興本学習センターで「ペン回し入門講座」を開いた。下は10歳から上は74歳まで、老若男女、幅広い年齢層の受講者60名が参加し、ペン回しの基本技をマスターした。浪人回しと呼ばれた時代から今日まで、「ペン回しは10代や20代の若者だけの遊び」という印象が強かったが、この講座を通して、ペン回しは幅広い世代に受け入れられる魅力的な遊びであることを確認できた出来事だった。
設立当初は90人弱だった日本ペン回し協会の会員数は、08年3月現在で約1400人にまでなっており、当初予想していた以上の飛躍的な増加を見せている。
裾野を広げたい――ペン回し専用ペン開発、単行本発売、全国大会開催
08年に入り、ペン回しの裾野を広げるための活動はますます熱気を帯びていく。2月には玩具メーカー・株式会社タカラトミーから打診を受けて監修したペン回し専用ペン『PEN’Z GEAR』が発売され、3月には協会初の公式本『ペンスピニング―ペン回しをはじめよう』も刊行された。いずれも、コアな愛好家に向けてというよりも、新たにペン回しをする人たちのために作り出したものだ。さらに3月30日には晴海トリトンスクエアで、インターネット外では初となる全国大会『PenSpinning Tournament Japan 2008』が開催された。トーナメント形式により日本一を決める大会で、300人を超える来場者が集まり、出場者たちの戦いを観戦した。優勝は埼玉県の高校生、大村龍貴さんだった。
あなたもペン回しをやってみよう!
ペン回しは、ペンさえあれば、いつでも、どこでも、誰にでもできる手軽な遊びである。コツを掴むまでは少し苦労する。最初は何回やってもペンが指にひっかかったり、手から零れ落ちたりと失敗の連続だが、初めてペンが綺麗に一回転して自分の指に納まった時の感動は何物にも代えがたい。一つの技ができるようになると、新しい技をどんどん覚えたくなる。ペンを親指の周りで一回転させる基本技「ノーマル」から「ストーム」と名付けられた高度な技まで、技の数は無数に存在する。さらに技を多数組み合わせて、フィギュアスケートの演目のように自分なりの構成を考えてペンを操る「フリースタイル」ができるようになれば、楽しみ方はまさに無限に広がっていく。
また、ペン回しは「世界の共通言語」でもある。ウェブ上の各国のフォーラムの会員数を見ても、競技人口は日本に数千人、韓国に約30万人、タイに約1.2万人、欧米諸国でも数千人程度はいると言われており、ペン一つで世界中の人たちと交流できる可能性を秘めている。ウェブ上では、2007年、08年と言語圏別対抗形式のワールドカップも開催されており、日本ペン回し協会としても海外との交流を深めていきたいと考えている。
読者の皆さんにもぜひ一度、ペン回しに挑戦してみていただければ……と願っている。ただし、周りの迷惑にならないように、気をつけていただきたい。
PEN'Z GEAR(ペンズギア)
全12種類 1本各¥525 発売:タカラトミー (2008年2月21日)
「ペンスピニング―ペン回しをはじめよう』
監修:日本ペン回し協会 発行:創美社 発売:集英社 ¥1200(税込み)2008年3月18日発売。「動画のお手本を見てレベルアップ!」(各キャリアの携帯電話から、ナビゲーターの実演動画サイトへの案内特典付き)