小学校で英語活動が必修に
文部科学省は2008年の学習指導要領の改訂で、小学校に「外国語(英語)活動」を導入することを発表した。正式には11年から実施になるが、多くの学校が09年から先行して実施している。小学校5年と6年で週1時間(45分)の配分である。また、「教科」とはしないので教科書はなく、代わりに「英語ノート」が配布される。授業は主として学級担任が受け持ち、外国人などの外国語指導助手(ALT)の活用が想定されている。小学校の英語活動では、英語の音声や基本的な表現に慣れ親しみ、積極的にコミュニケーションをしようとする態度を育成することを目標とする。読み書きや文法は、中学校で導入される。
導入に伴う大きな不安
文科省は小学校に英語活動を導入するにあたって、10年以上も研究開発を試行してきた。事実、多くの小学校では「総合学習の時間」などで、英語活動を経験している。また、「英語」を教科として取り入れているところもある。さらに、それを小学校1年から開始している学校もある。今回の措置は、全国的な「英語格差」を引き起こさないようにするためのものでもある。それでも、英語活動の必修化にともない、学校側の不安は残る。先生は英語教育の専門的な訓練を受けていないので、「なに」を「どう」教えてよいか不安になるという。文科省はリーダー格の先生からはじめ、全教員の研修を計画している。そのなかで、「英語ノート」の使い方やALTとのチーム・ティーチングの方法を体験する。
また、文科省は「英語ノート」に関連したデジタル教材(CD-ROM)を各校に配っている。教室でパソコンに入れ、スクリーンに映し出して使う。クリックひとつで、音声や動画が流れる。コンピューターの働きをするホワイトボードも準備されている。そこにはいろいろなコンテンツが組み込まれていて、要所をタッチするだけで、歌や音声を聴くことができ、質疑応答もできる。いずれは各校に最低1台が設置されると予想される。これをうまく活用すると、いろいろな不足分をカバーすることができる。
児童・小学生英語教育の難しさ
一般に、子どもは母語をはじめとして、ことばの飲み込みが早いといわれるが、それはその言語が社会で使用されている場合の話である。日本のようなところでは、英語を学ぶことは大変な努力を要する。現実に英語を使う場面がないと、フィードバックが効かず、動機付けが十分に働かない。子どもの英語教育では、歌や踊りやゲームが導入の方法として、広く使われる。これらは最初こそ子どもを引きつけるが、長続きはしない。こればかりを続けていくと、いずれは飽きられてしまう。そうかといって、英会話をやってみても、あいさつを覚えるていどで、すぐに行き詰ってしまう。
これらの方法はたいがい、模倣、オウム返し、そして暗記にもとづくもので、子どもの心をとらえきれない。そのために、早期の導入は早期に英語嫌いをつくってしまう可能性すらある。子どもの想像力に働きかけ、子どもの表現力を伸ばす場面を準備しなければならない。
「英語」を教えるのではない!
ひとつの方法は、異文化間コミュニケーションである。異文化との出会いは、子どもの興味と関心を引く。外国人との交流は、子どもの積極的な態度を促すよい機会である。子どもはもてる媒体をフルに使って、伝え合いを試みる。こういった経験のなかで、英語の役割を学びとる。英語活動の目標はまさに、ここにある。「英語」を教えるのとは違う。だから、ALTや地域の人材の協力が求められる。これらの人々は英米人に限らず、いろいろな国の出身者が望ましい。子どもはこのような交流をとおして、英語使用に慣れ、英語の意義を感じ取る。同時に、英語にはいろいろな言い方があることを実感する。いろいろな人の英語を理解し、自分の話す英語がいろいろな人に通じるという体験が、勉強意欲をかきたてる。
英語が国際言語になったということは、英語は英米の国の人々とだけではなく、いろいろな国の人々と話すことばになったということなのである。また、英語は実に多様な言語である。英語には、さまざまなお国なまりがあり、それは尊重されなければならない。小学校の英語活動では、こういった英語の現代的傾向への気づきが大切である。
長期的な展望と計画
今回の「外国語(英語)活動」の導入は、移行的な措置と考えられる。これを機会に、教員研修と養成を充実させる必要がある。そして、初等・中等課程の接続をスムーズにするために、一貫した展望が求められる。いずれは、3・4学年からの開始を検討することになろう。しっかりとした対応をするためには、「なに」を「どう」教えるかについて、本格的な検討が求められる。ALT
Assistant Language Teacher
外国語指導助手のこと。主として英語圏出身の英語指導助手で、公立の小中高で日本人英語教師とチーム・ティーチングする。全国で約5500人が活躍している。国が施策したJETプログラム(Japan Exchange and Teaching Program 語学指導等を行う外国青年招致事業のこと)の一環として、1987年に始まった。現在は、都道府県でも募集している。外国語学校や人材派遣会社から調達する市町村が目立ち、質の問題が指摘されている。。(イミダス2009「言語とコミュニケーション」より)(本名信行)