お笑いコンテストがブームに
日本経済が低迷している昨今、「お笑いブーム」の熱だけはまだまだ冷める気配がない。そんなブームの中で中心的な役割を果たしているのが、2001年から毎年年末に放送されている漫才日本一を決めるイベント「オートバックスM-1グランプリ」(以下、「M-1」)だ。「M-1」に対する世間の注目度は年々高まっており、08年には関東地区で23.7%、関西地区で35.0%という過去最高の視聴率を記録した。「M-1」がスタートして以来、お笑いで勝敗を競う「お笑い賞レース」が全国的なブームとなりつつある。毎年のように新しい賞レースが創設され、参加者もどんどん増えている。08年にはコント日本一を決める「オロナミンC キングオブコント」が開かれ、09年にはお笑い映像コンテスト「S-1バトル」も始まった。お笑い賞レースのこれまでの歴史と今後の展望について簡単に整理しておきたい。
関西で生まれた賞レース文化
まずおさえておきたいのは、「M-1」以前のお笑い賞レース文化は、どちらかというと関西を中心としたものだった、ということだ。1966年に始まった「上方漫才大賞」を初めとする古くからある漫才コンクールは、基本的に関西の芸人を対象としたものだった。その後、「ABCお笑い新人グランプリ」「MBS新世代漫才アワード」など、大阪のテレビ局が主催する賞レースも新たに生まれたが、それらもかなり関西ローカル色の強いものだった。これらの大会は、関西以外の地域ではテレビで放送されることもなく、その存在自体がほとんど知られていない。一昔前までは、お笑い賞レース文化はほぼ関西限定の局地的なものに過ぎなかった。
そんな中で、2001年に始まった「M-1」は、お笑い賞レース文化を全国に広めて、お笑いブームを盛り上げる大きなきっかけとなった。
「M-1」の革新性
「M-1」には、今までのお笑い賞レースとは違う革新的な特徴がいくつかあった。まず第一に、「M-1」の決勝戦では、島田紳助、松本人志を始めとするテレビで活躍する現役の有名芸人が審査員となり、彼らが自分たちの名において責任ある審査を行った、という点だ。
誰もが顔を知っているような有名芸人が審査をすることで、審査の客観性が確保され、審査結果にお墨付きが与えられた。このことによって視聴者は、「お笑い」という本来なら優劣を客観的に競うのが難しいジャンルのものを、一種の競技として楽しめるようになったのだ。この点こそが、お笑い賞レースの歴史を塗りかえる画期的なことだった。
また、「M-1」は、プロ・アマ問わず誰でも参加できるオープン型の大会であるという点も重要だ。他の賞レースでは普通、大手事務所所属の芸人でないと、そもそも予選にも呼ばれなかったり参加が認められなかったりする場合が多い。「M-1」は、コンビ結成10年以内であれば出場資格に制限が一切ない。単に腕試しをしてみたいだけのアマチュアから、真剣に優勝を狙うプロの芸人まで、幅広い層の人間が「M-1」に挑むことができる。08年には、出場者数は過去最高の4489組となった。国内のお笑い賞レースの中では、参加者の人数も最大規模である。
「M-1」は全国ネットのテレビ番組として毎年ゴールデンタイムに放送されている。徐々に視聴率も上がり、現在では年末の一大イベントとしてすっかり定着した感がある。「M-1」の成功によって、関西以外ではマイナーだったお笑い賞レース文化が、一気に全国レベルのものとなった。
続々登場した新コンテスト
「M-1」の成功に触発されて、いくつかの新しい賞レースも始まった。その代表とも言えるのが、02年開始の「R-1ぐらんぷり」である。これは、1人で芸をする「ピン芸人」の日本一を決める大会だ。小島よしお、世界のナベアツ、エド・はるみなど、多くのピン芸人がテレビをにぎわせるようになっている現在、「R-1ぐらんぷり」はそんな彼らが実力で日本一を争う真剣勝負の舞台として注目されるようになってきている。また、03年には「お笑いホープ大賞」という大会も始まった。これは、すでに歴史のある関西系のお笑い賞レースに対抗して、在京のお笑いプロダクションが中心となって、関東の若手芸人の実力ナンバーワンを決めるためのイベントである。08年にはいったん終了したが、09年以降にリニューアルして復活すると言われている。
近年では、お笑い賞レースブームの火付け役となった「M-1」そのものも少しずつ様変わりしている。07年には、敗者復活枠から勝ち上がったサンドウィッチマンが優勝を果たして、そのドラマティックな展開が多くの視聴者の感動と興奮を呼んだ。
お笑い賞レースの注目度を高めるために必要なのは、その勝敗争いに見る人を巻き込むための演出上の工夫である。審査に公平性とエンターテイメント性があり、勝ち負けが決まる過程を楽しめる仕組みが整っていれば、お笑い賞レース文化はますます盛り上がっていくことだろう。まだマイナーな地位にある関西系の賞レースや「S-1バトル」などの新興の賞レースが今後人気を呼ぶかどうかも、この点にかかっている。