ワールドカップでベスト4に
「これでようやくスタートラインに立つことができた」2009年6月6日、アウェーのタシケントでウズベキスタンを1-0で下した直後、日本代表の岡田武史監督は気負った様子もなくこう話した。そしてこう付け加えた。
「ぼろぼろにされてもいい。これからはできるだけ強いチームと対戦したい」
ことし1月、岡田監督は「ワールドカップでベスト4」という目標を宣言した。この時点でアジア最終予選は8試合中の3試合を終えたところだったが、バーレーンとカタールにアウェーで勝ち、3戦全勝のオーストラリアとともに大きく抜け出す態勢にあった。08年11月にアウェーでカタールに3-0の快勝を飾ったことで、岡田監督は予選突破の自信を深めたに違いない。だからこそ、予選突破後の「戦略」を練り、「ベスト4」という、世界のサッカーから見れば「お笑いぐさ」のような宣言をしたのだ。
ちょうど4年前、05年の6月にも、ジーコ監督率いる日本代表は世界で最も早くワールドカップ出場を決め、直後のFIFAコンフェデレーションズカップ(ドイツ)ではブラジルと2-2で引き分けるなど、世界に十分対抗できるという自信をつかんだ。
だがこのチームの成長はここで止まってしまった。翌年のワールドカップ・ドイツ大会での「崩壊」は、オーストラリアに逆転負けを喫したカイザースラウテルンで起こったわけではなく、MF中村俊輔の活躍でブラジルと引き分けた05年6月22日のケルンから始まっていたのだ。
「予選突破=スタートライン」という岡田監督の話は、06年大会の失望を繰り返してはならない、予選突破からの1年間こそ、あらゆる努力を傾けて成長し、世界のレベルに近づかなければならないという、選手たちに対する「檄(げき)」にほかならない。いや、その「檄」は選手たちだけに対してのものではない。日本サッカー協会、メディア、そしてファンと、日本のサッカー界全体に対してのものでもある。
では、世界のレベルに迫る成長のために何が必要なのか。
パス能力を生かせる組み合わせ
現在の日本代表の長所は、高いパス能力をもった選手が複数いることだ。中村俊輔(エスパニョール)、遠藤保仁(G大阪)、そして長谷部誠(ヴォルフスブルク)の3人が中盤に並ぶと、この3人を中心に短いパスをつないでしっかりとボールを保持することができる。このレベルの選手が3人並ぶのは、これまでのワールドカップではなかったことだ。日本代表の基本的なシステムは、4人のDF、2人のボランチ、両サイドに開いた2人の攻撃的MF、そして2人のFWだ。試合によって、2人のFWは横に並ぶ形(ツートップ)と、縦に並ぶ形(ワントップ)の2種類がある。そして縦に並んだときの2人目にMF中村憲剛(川崎)がはいる形が、予選の終盤ではとられていた。
右のMFには中村俊が固定されている。それに対して左は、岡崎慎司(清水)、大久保嘉人(神戸)といったFWが置かれ、サイドから中央に飛び込んでゴールを狙う役割となる。
これからの日本代表の大きな課題は、ワントップあるいはツートップのFW、そして左サイドに置かれるFWの能力を高め、より得点力のある組み合わせを見つけることだ。
大型ストライカーが不可欠
今回の最終予選の序盤戦では、スピードのある玉田圭司(名古屋)が好調にゴールを重ねた。小柄で非常にすばやい田中達也(浦和)も、攻守両面で見事な活躍を見せた。しかし予選終盤には、玉田はコンディションを崩し、田中達も故障でチームを外れた。代わって評価を高めたのは岡崎で、ウズベキスタン戦の決勝点のようにゴールに向かう姿勢で玉田や田中達にもないものを示したが、オーストラリアの大柄な守備陣のなかに孤立すると非力さを露呈した。岡田監督は、FWはスピードと技術を重視し、相手DFラインの背後に抜ける動きに期待している。その一方で、体を生かしてポストプレーをする「大型ストライカー」タイプの選手は、この最終予選ではいちども起用されなかった。
だが、ワールドカップに向けて攻撃の多彩さを考えるなら、FWのバリエーションを増やす必要がある。「大型」タイプの巻誠一郎(千葉)、まだいちども代表に呼ばれたことはないもののイタリアのセリエAで得点を重ねているオールラウンドタイプの森本貴幸(カターニャ)、そして復調の兆しを見せ始めたオールラウンドタイプの高原直泰(浦和)など、候補は何人もいる。
日本の長所である中盤のパス能力をゴールに結びつけるFW陣の再構築こそ、岡田監督にとって「ベスト4」に迫るための最優先課題に違いない。