近年、このような農業構造を改革するために、政府は、品目横断的経営安定対策の実施、農地政策の改革、農産物の輸出振興などを進めている。
経営規模の大規模化と農産物輸出
品目横断的経営安定対策が2007年4月から始まっている。これは、諸外国との生産条件の格差から生まれる、日本側の不利を補正するための補てんと、収入減少の影響を緩和するための補てんを実施するものである。この場合、助成金・交付金をこれまでの農作物の品目別ではなく、一定の要件を満たした農業の担い手、経営体に集中化、重点化することにしている。
一定の要件とは、4ha以上(北海道は10ha以上)の経営規模の認定農業者(各市町村が認定した農業者)、20ha以上の集落営農組織(集落内の農家が共同して農業生産活動を行う組織)である。
しかし、こうした一定規模以上の農地を持つまでには、多くの障害があり、なかなか規模拡大が進まない。そこで、市町村単位で農地の担い手への面的集積を図る組織を設置するなど、農地政策上の改革が計画されている。
その際には、農地をまとまった形で担い手に再配分する役割を担う、農地集積コーディネーターを育成するとともに、その組織内に位置づけて、農地集積の加速を図ることになっている。
また、可能性のある地域では、農林水産物の輸出が積極的に取り組まれている。
政府は、04年に約3000億円だった農林水産物の輸出額を、09年には6000億円に、13年には1兆円に拡大することを目標としている。日本では圧倒的に輸入が多く、受け身の対応に終始してきたという認識があり、これを「攻め」に転じて輸出を増やし、日本農業の元気を取り戻そうというものである()。
06年の輸出実績(総額3739億円)は、さけ・ます(177億円)、さば(126億円)、乾燥なまこ(126億円)、すけとうだら(113億円)、リンゴ(57億円)、緑茶(31億円)、ながいも(18億円)、援助米を除く米(4億円)、丸太(4億円)となっている。
輸出先は、アメリカ(全農林水産物輸出額の18%)、香港(16%)、中国(16%)、韓国(13%)、台湾(11%)、EU25カ国(5%)などである。
07年1月の報道によれば、台湾で日本のリンゴが好評だという。台湾のあるデパートでは、山形県朝日町のリンゴが贈答用として、8個詰めで4400円(単価550円)、一般向けに2個詰めで920円(単価460円)という値段で売られている。日本では考えられない高いリンゴである。
高齢者が支える日本農業
以上のような、担い手対策、農地政策のあり方や、日本の農産物に対する海外の評価は、農業を本格的にやっていこうという農業者にとっては朗報である。しかし、とくに農産物輸出の可能な農業者や地域はごく一握りである。大多数の農家や多くの地域では担い手がいないか、いても高齢者ばかりというのが実態である。農業・農村は、日本の高齢社会を先取りしているといっても過言ではない。
総務省統計局「推計人口」(05年10月1日)によれば、日本の人口は1億2800万人。うち65歳以上が20.0%で、世界的にも高い水準にある。働いている人のうちで農業就業者(全就業者の4.2%)をみると、65歳以上が58.1%を占める。再雇用の多い業種以外、65歳以上が6割を占める業種はほかにない。農業の先行きが心配される。
国の農業政策の基本は、食料の自給力、備蓄、貿易の適正なバランスによる食料安全保障にあり、そのための資源を確保することである。中でも要は自給力であり、これを維持するためには、農地、技術、人の確保が必要となる。しかし、度重なる農産物の市場開放は、これらの確保を困難にし、自給力は大きく後退している。
1975年に557万haあった農地は、30年後の2005年には88万ha減の469万haと、いまも農地減少に歯止めがかからない。もちろん問題は農地の利用の仕方だが、他方で耕作放棄地が38万6000haも発生していることを見れば、農地の減少は深刻である。
農業技術にしても、例えば中山間地域などでは、農業の担い手がおらず、仮にいたとしても70歳を優に超えた高齢者であり、技術の継承どころか農地の維持さえ困難で、耕作放棄地の増大につながっている。後退のスパイラルに歯止めがかからないのである()。
農業再生への三つのカギ
こうしたことを改善するため、農地政策の改革や輸出振興のほかに、さしあたり次の三つも考えたい。一つは、高齢者の役割を十分に認識して、その力を発揮してもらうことである。
高齢者や女性でなければ持ち合わせていない知識や、技能・技術を活かした労働は、彼らの潜在能力を引き出して元気にする。高齢者は、ともすれば「余剰労働力」である。しかし、農と食の生産・販売活動に参加することで、耕作放棄地は減少し、収入を得れば「やりがい」が生まれ、社交的になることで老化の防止になり、病気予防と健康増進にもつながる。「労働こそ最大の福祉」となる。
高齢者が元気な例をあげれば、愛知県豊田市足助(あすけ)町では、おじいさんが「ZIZI(じじ)工房」で手作りハム・ソーセージを、おばあさんが「バーバラはうす」でパンを作っている。ともに大好評である。長野県小川村の「(株)小川の庄」では、伝統食「おやき」で年商約8億円をあげる。地元野菜を使い、社員には「60歳入社、75歳・歩行不可が定年」の地元の高齢者を活用。6億円は地元に落ちる。
改善策の二つ目は、若い人に積極的に農業・農村に来てもらうことである。
高齢者の知識や技能・技術を継承し、農地を始め、地域資源の維持保全に一役買ってもらわなければならない。もっとも最近では、若い人たち自らが積極的に農業にかかわり、定住しようとする動きも見られる。こうした動きを加速させるために、国や地方自治体は、様々な就農支援策を講じている。
三つ目には、都市とは違った農村の価値を明確に認識して、農村と都市との交流を活発にすることである。
農業・農村には「生命を育む心」「心身を耕す心」「資源を守る心」を提供する資源と価値があり、これらをもっと知ってもらうことが大切である。