メール発信、36%が1日11回以上!
「働けど働けどなお我暮らし楽にならざりじっと手を見る」石川啄木の有名な歌だが、ひたすら携帯電話(ケータイ)を操作している若者の姿を見て、フランスから数年ぶりに帰国した友人がそう言ったのは5~6年前。ケータイの親指リテラシーが話題になり始め、ケータイメールの本格的利用期を迎えていた時期だ。事実、内閣府が2007年にまとめた「第5回情報化社会と青少年に関する意識調査」によれば、01年の調査では、ケータイメールを利用する回数が、1日10回以上というユーザーが23.1%いた。しかし06年には1日11回以上の発信は36.4%に増加、しかも1日に51回以上も利用するという、メール依存状態とも言うべきユーザーが5.3%もみられる。ケータイを取り出して、カチャカチャと親指を素早く動かす姿を、公共の乗り物やお店、あるいは歩きながら、会議中、授業中と、いたる所、あらゆる状況で目にするようになった。メールの返事がすぐに返ってこないと不安になるほどの依存状態にあればなおさらである。
ケータイ普及を一気に加速させた10代
ケータイは、小型化・低廉化、そして高サービス化が進み、通話やメール通信にとどまらない高機能化が進んでいる。いまやケータイは小さなパソコンやテレビと化して、気分転換や、次の行動を起こすための準備情報を手軽に検索、入手できるライフラインとしての役割を担うまでになった。契約数は、飽和状態にあると言われながらも毎月微増を続け、ついに07年12月末に1億契約を超えた。関連する調査結果から、小学校高学年(10歳)以上75歳未満でケータイを持っている率を推定すると、普及率は約104%となり、1人に1台以上を保有している計算になる。こうしたケータイ普及の推進役を担っているのは、中学高校生に加えて小学生など10代の子供たちである。総務省は07年4月から、すべての第3世代ケータイにGPS搭載を義務付けたが、このことが小学生にケータイを持たせた親の「学校や塾帰りの安全確保」というニーズと一致した。登下校の確認、電車乗降駅の改札口の通過確認など、位置情報を確認するセキュリティーサービスを提供する企業があらわれたことで、親はケータイとともに、手軽に安心を買うことができるようになった。そしてケータイ会社はさらに新規市場を開拓することになった。
コミュニケーションの新たな手段に
ケータイを手にした子供達は、友達とメールアドレスを交換し合い、場所、時間を問わずに、頻繁に、装飾メールやキャラメール、写真付きメールなどを交換するようになった。そして1980年代に「変体少女文字」が生まれたように、「ケータイ文字(ギャル文字)」を生み出し、自分好みに創意工夫を凝らし、独自性を発揮しながら楽しんで利用している。情報通信総合研究所とgooリサーチの共同自主調査結果をみてみると、家族で会話が増えればケータイメールや通話も増え、直接会話が少ない家庭でも、面と向かって言えないことを、絵文字などを使ったケータイメールで、オブラートに包んで伝えていることがわかった。一緒の時間が持てないことを補う代替手段、また家族SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス 友人、知人の紹介があって参加できるようになる非開放型のコミュニティーサイト)を通じて、家族関係を維持しようとする重要なツールとなっている。しかし、その環の中に父親が関与している割合が小さいとの結果も出ている。
「いじめ」などの弊害も
他方、モバイル社会研究所の、子供の携帯電話利用時間調査をみてみると、メールに限らず、インターネットサイトの深夜の利用が多く、同時に親は子供が深夜に利用していることを知らないことがわかった。そのためNTTドコモは、従来のコンテンツ制限に加えて、深夜帯には使えないようにする時間制限フィルタリングサービスを始めた。また、「プロフ」(自己紹介サイト、プロフィールの略)、「なりすまし」、「出会い系サイト」、「いじめ」、「学校裏サイト」(学校の公式サイトに対して、在校生や卒業生が非公式に立ち上げたサイト)などの問題が表面化したことで、総務省、文部科学省、警察庁合同で、有害サイトへのアクセスを制限するフィルタリングサービスを導入し、学校関係機関に指導を要請し、各携帯電話会社もそれに従っている。解決見えない有害情報の扱い
「出会い系」や「闇サイト」などが社会問題化し、携帯電話会社、国、関係機関が一体となって、有害サイトに対するフィルタリングを行うことは重要なことだが、イタチゴッコの感もいなめない。さらに、何をもって有害サイトとするかの判断を誤ると、今後のコンテンツ製作やアイデア創出にも影響をおよぼしかねない。「ケータイ小説」も、個別にフィルタリングをかけていくことが可能なのかという問題もある。最終的にはユーザーの利用判断に任せざるを得ないが、国の関係機関、学校、携帯電話会社などでの啓発教育や、コンテンツ会社の自助努力に頼るのではなく、保護者である親のケータイ利用に関する教育やしつけが重要になってくる。食事中、食卓にはケータイを置かせないなど、基本的な常識を教えていくべきである。同時に、親自身のケータイの利用方法も見直していかなければならない。
親指リテラシー
親指だけでキーを操作する能力のこと。携帯電話は、キー操作をはじめとして、親指操作が基本となるために、青少年が親指で文字を打つスピードや正確さが注目された。
ケータイ文字
ケータイメールを打つ際に、携帯電話に表示できる文字や記号を組み合わせて表現した手書き風の文字。たとえば、「ずーっと一緒にいようね」を「す”→っL⊂一糸者(こレゝよぅNe」などと、書き表す。
出会い系サイト
インターネット上で他人と知り合うことを目的に開設されたサイト。目的はさまざまだが、児童買春や援助交際、その他犯罪の温床となっているケースもあるため、18歳未満の未成年を児童買春や援助交際の被害から守ることを目的とした規制法も成立している。
闇サイト
殺人の請け負い、集団自殺志願者の募集、児童ポルノ、けん銃、薬物などの販売など、犯罪行為を誘発する違法有害サイトの通称。