iPhoneがもつ革新性とは
iPhone(アイフォーン)の開発コンセプトは、アップルのCEO、スティーブ・ジョブズが「他の携帯電話よりも文字通り5年は先行した革命的で魅力的な製品」と語ったように斬新さに満ちたものだった。大きなタッチディスプレーを指でなぞって操作する新たなユーザー・インターフェース(UI)、携帯音楽プレーヤーiPodとしてもそのまま使える音楽機能など、その設計や機能の先進性で世界の携帯電話業界に新風を巻き起こした。iPhone 3Gでは、開発から販売、顧客サービスに至る一連のマーケティングにおいて、アップルがその主体となっている。海外では一般的なビジネスモデルだが、日本では、この方式は非常に稀である。
実は世界一進んでいる日本の携帯
世界的に見て、日本は携帯電話サービス提供のモデルが特殊である。日本では、携帯電話事業者(キャリア)が携帯電話端末からコンテンツ、アプリケーションなどを通信インフラと共に包括的に提供する、垂直統合型のビジネスモデルを築いてきた。キャリアが端末の仕様を作成し、端末メーカーはこれに従って端末を提供する。端末にはキャリアのロゴが大きく付けられ、メーカー名は記載されないケースさえある。さらにキャリアと顧客との接点は非常に大きい。このように、キャリアが先頭に立って包括的に取り仕切る日本モデルでは、新たなサービスを商用化しやすいという利点がある。異なる利益を主張する様々なプレーヤーをとりまとめ、業界が一丸となりやすいためである。その結果、日本では先進的な市場を構築することができた。
世界の携帯電話市場と比較すると、日本市場は突出した点が多い。まずはその先進性だ。iモードなどのインターネット機能やカメラ付き携帯電話の普及の口火を切ったのは日本であった。高速データ通信を可能にする3Gサービスの普及率の高さでは、右に出る国はない。さらに、ワンセグによるTV視聴や「おサイフケータイ」のような決済機能付きの携帯電話が当たり前のように売られている市場は、ほかにはない。日本の携帯電話は欧米諸国より2~3年程度は先行しているとも言われ、その技術の高さにも定評がある。
しかし、日本モデルは、日本の携帯電話メーカーが海外へ進出していけない状況を作り出したという指摘もある。国際的な高い評価を受けているのにもかかわらず、世界の携帯電話市場における日本の存在感は薄い。お隣の韓国では、端末シェアで上位5位に入るメーカーが2社もあるのに対し、日系メーカーのシェアをすべて足してもわずかに5%程度である。海外進出を図った日系メーカーもその多くが断念している。
先進日本がなぜ「ガラパゴス」?
日本の携帯電話市場は「ガラパゴス諸島」とも揶揄(やゆ)されている。これは、ダーウィンが発見した、他と隔絶した環境の中で独自の進化を遂げた特殊な動物の住む島になぞらえたものだ。大きく成長を遂げたものの、技術規格やビジネス慣習が世界標準とかけ離れてしまったことを示している。これには、日本独特の通信規格を採用した事情が大きく反映している。日本では1990年代後半から第2世代と呼称されるデジタル携帯電話の導入が始まったが、当時世界の主流であったGSM規格を採用せず独自規格であるPDCを採用した。この閉ざされた環境で、キャリア主体に携帯電話サービスを促進するビジネスモデルが作り上げられてきた。
一方国内端末メーカーにとって年間販売台数が5000万台を越える日本市場は決して小さくはない。あえて海外へ進出しなくともある程度の収益が得られるという側面もあり、日本のメーカーは概して自らのマーケティングをキャリア任せにしてきてしまった。このため、自らマーケティングのノウハウが不足し、状況の異なる海外で苦戦を強いられ、いったん海外進出を試みても撤退を繰り返すという状況を作り出してきたとも言われている。
市場の特殊性は変わるのか
アップルは、メーカー主導という、日本市場では例外的なビジネスモデルで参入を果たしたが、これをもって幕末の「黒船」に例えられることもある。日本がこれまで築いてきたビジネスモデルであるキャリアと顧客との結びつきが薄れ、業界の構造が変わる可能性があるからだ。世界を見渡すと、近年、アップルに代表されるように、異業種の携帯電話市場への参入が目立つ。検索エンジン最大手のグーグルも、スマートフォンOS「Android」を展開して新たな市場開拓を目指している。また、「固定からモバイルへ」の戦略のもと、インターネットや通信機器関連業の大手も、虎視眈々(こしたんたん)と携帯電話市場を狙っている。
ガラパゴスに例えられる日本の携帯電話市場も市場の構図は同じだ。携帯電話業界は他業界からのビッグプレーヤーの参入により、今後、その構図が大きく変革する可能性が指摘されている。