単純計算で1県に二つ以上の空港がある日本には、離島など生活する上で欠かせない空港がある一方、財政赤字が膨れ上がっている中で、なぜ建設するのかが十分に問われていない空港も多い。
狭い国土に空港がひしめき合うワケ
一口に空港といっても、いくつかの種類に分かれる。羽田や成田のように国を代表する空港や、札幌や福岡のような国内の基幹となる空港、そして地方自治体が管理主体となる地方空港である。地方空港の場合、どこに作るかという最終決定は国が行うが、出発点は地元の「作りたい」という意志である。一方、国土交通省は、国土全体にどのように空港を配置するかというグランドデザインを示してこなかった。隣接した地域に複数の空港がひしめき合い、他の空港や新幹線駅との効率的なネットワークが形成されていない背景には、こうした事情がある。
静岡空港は、その代表的な例だろう。静岡市内からバスや車で約1時間を要するアクセスはそれほどよいとは言えない。乗り入れ航空会社が少ないため競争が起こらず、航空運賃が相対的に高くなりがちだ。こうして、県内に6駅ある新幹線との競合は厳しい状態にある。
なぜ地方は空港を作りたがるのか。何よりも、高速道路や整備新幹線に見られたように、多額のお金が動くことに魅力がある。空港建設にかかる数百億から数千億円の資金が、様々な形で地元経済を潤すと考えられるのだ。地方空港は総額の半分を国が賄うので、空港を建設しなければ「損だ」という意識が働き、地元の負担分にはなかなか目が向かない。
一方で、国の側にもお金を使いたい誘因がある。空港の建設や整備には特別会計が当てられている。従来、空港整備特別会計とされてきたものだが、最近、社会資本整備事業特別会計という枠組みで、いくつかの特別会計と統合された。この特別会計は、飛行機の離発着に際して支払われる空港使用料や、航空機燃料に課される税金などが原資となっている。そして、それは航空運賃に上乗せされ、最終的に乗客に転嫁される。制度の発足当初、飛行機の利用者は富裕な人々に限られており、「空港は一部の人のものだから、利用者がその経費を負担すべき」と考えられたためだ。
この考え方が今も制度的に継承され、特別会計には毎年、安定的に多額のお金が入ってくる。特別会計という財源を握り、それを通して「天下り」などの権限を行使しようとする行政側にとっては、このお金を「適切に」使わないと、特別会計の存在根拠が問われることになってしまう。こうして、空港の建設・維持に「前向き」に財源が投入されていったのである。
需要予測が甘くなるカラクリ
一方、地方にとっては、空港は一種のステータス・シンボルとなる。だから、多少の無理をしてでも空港が欲しいのだ。無理をするためには、その必要性を示す需要予測を大きめにすればいい。日本の場合、一般に空港建設に要する期間は長い。環境アセスメントや、周辺住民との対話に十分な時間をかけるからだ。これは非常に民主主義的で望ましいことだが、その結果、かなり遠い将来の需要を予測することになる。
そのため、為替レートの変動など、推計は極めて難しいものとなる。その上、乗り入れ航空会社が決まっていない中で、開設が見込まれる路線と便数を希望的観測で設定する。航空運賃次第では、乗客は多少遠くても別の空港を利用するという想定も反映させないために、どうしても予測値が過大になりがちなのだ。
その他にも様々な要因があり、現状の需要予測の問題性は指摘しなければならないが、需要予測自体を否定することはできない。客観的な指標に基づく必要性の議論は不可欠だからだ。
大きな問題は、需要予測の手法に関する情報が公開されない場合が多いことである。その手法は行政によるマニュアルがあるが、地域に特異な事情から、マニュアル通りに測定されない要素も多い。このため、統一の指標に基づいているとは思えないのが実態で、外部からのチェックが有効に機能せず、次々に空港建設が進められることになった。
地方空港の淘汰が始まった
2009年9月には、北海道の弟子屈飛行場が閉鎖される。今後は、地方空港の淘汰の時代が始まるだろう。航空会社の経営環境の悪化がそれを加速させている。国際的な競争の激化と長引く不況、燃油価格の乱高下、さらには新型インフルエンザの発生など、航空経営を取り巻く環境は非常に厳しい。一方、空港の経営状況は透明性に欠け、最近になってようやく開示の動きが出てきたところだ。空港の経営が黒字なのは、せいぜい羽田、伊丹といった大規模空港くらいで、地方空港は大半が赤字と見られる。
これまで日本の航空会社は、「公共性」という錦の御旗の下で、採算にはある程度目をつぶって地方路線を維持してきた。またそれは、ドル箱である羽田空港の発着枠を獲得するために欠かせない行政へのアピールでもあった。しかし、2010年に再拡張工事が終われば、羽田空港の国内線の発着枠に余裕が生じ、アピールの必要もなくなる。経営悪化もあって、航空会社は路線のリストラに本格的に取り組み始めている。
その最たる例が、関西国際空港、福島空港における大幅な減便である。08年8月、ジェット燃料の高騰を受け、日本航空は21路線、全日本空輸(全日空)は約10路線の廃止・減便に乗り出した。そのうち、関空発着の路線が15を占め、福島発着分も3路線が対象となった。もともと路線が少ない福島空港にとっては、国内線が半数以下となる大きな打撃であった。同年9月のリーマン・ショックを受け、こうした動きはさらに加速している。
地方空港の生き残り策の一つが、石川県の能登空港が03年に始めた搭乗率保証である。能登空港の制度は、搭乗率が一定の割合に満たない場合に、自治体が航空会社に金銭的な援助を行う一方で、設定した搭乗率を上回った場合には、航空会社が地元に協力金を支払う。静岡空港でも、日航の福岡便の搭乗率が70%を下回る場合に、1席当たり1万5800円を支払っている。ただし、航空会社の経営が厳しい状況下で開港した静岡空港の搭乗率保証は、自治体に負担のみを強いる制度になっているため、県税の浪費に繋がる危険性がある。
根本的な解決には、商業施設としてのより大胆な展開など、空港自らの営業努力を通じた新たな需要の創造が必要だ。しかし、空港としての用途を大きく逸脱した目的での施設利用が禁じられるなど、空港には不特定多数の利用を抑制する規制がある。こうした空港運営上の規制緩和を積極的に訴え、周辺地域と一体になった取り組みを進めなければならない。
将来的には民営化をし、状況によっては空港を廃港とするプロセスの構築も必要だろう。