「スマートフォン」ってなに?
携帯電話機の中でスマートフォンが大きな脚光を浴びている。パソコンに近い利用方法やインターネット関連サービスの使い勝手の良さなどから人気を集めてきた。携帯電話業界におけるスマートフォン市場への期待は大きく、そのOSやプラットフォームを巡り各陣営の間で競争が激化してきた。スマートフォンに対し絶対的な定義が存在するわけではない。「Smartphone(賢い電話)」という造語の通り、単にハイエンド向けの高機能な携帯電話を表す場合もある。業界では、オープンなOS(汎用OS)を採用し、かつ第三者がアプリケーションを開発する環境が整っている携帯電話を示すことが一般的である。つまり、高機能な製品がすべてスマートフォンというわけではない。
ユーザーにとってスマートフォンを使う最大の利点は、動画やSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)、音楽コンテンツなど、特にパソコン環境でのインターネットを活用したサービスが利用しやすい点にある。これは、従来の携帯電話と比べアプリケーションの追加やソフトウエアの更新が容易なため、新サービスにも素早く対応できることにもよる。
アップル参入で市場が過熱
スマートフォンの歴史は意外に古く、1990年初頭には既に初代の製品が登場している。2000年に入り、マイクロソフトのWindows Mobile(ウィンドウズ・モバイル)を搭載したスマートフォンが登場するなど、ビジネスユーザー向けに徐々にその市場を確立していた。さらに法人市場では、カナダのRIM(Research In Motion)が「BlackBerry(ブラックベリー)」を発表、電子メール・ソリューションとともに提供される同社の製品は、その使い勝手の良さや安全性の高さが評価され、世界中に広まっていった。しかしこれほどまでに市場が過熱してきたのは、アップル参入による影響が大きい。07年に登場した「iPhone(アイフォーン)」は、大きなタッチディスプレーを指でなぞって操作する新たなユーザーインターフェース(UI)、携帯音楽プレーヤーiPodとしてもそのまま使える音楽機能など、その設計や機能の先進性は高く評価され、登場してからわずか2年ほどでスマートフォン市場での10%を超えるシェアを獲得した。iPhone旋風が、特に消費者のスマートフォン市場過熱の口火をつけたとも言える。
携帯電話先進国の日本だが、スマートフォンに関しては後発組となる。携帯電話出荷台数に占めるスマートフォンの割合は、08年では全世界では10%を超えた一方、日本では数%程度に過ぎない。しかしここへ来て、各携帯電話事業者からのスマートフォンの新機種発表が相次いでおり、市場が過熱する兆しが見える。この狙いの一つとして挙げられるのが、2台目の需要の開拓である。日本国内では携帯電話の普及率は8割を超え飽和市場となっている。08年から開始している端末販売奨励金の禁止から端末売り上げも前年比20%程度落ち込んだ。しかしここでスマートフォンの普及が拡大すれば、端末売り上げもデータ通信による収入も増加が見込めることになる。
陣営間競争とアプリケーションストア
スマートフォンのコアとなるOSやプラットフォームに参入する企業は、その戦略も様々である。インターネットやパソコン業界など、携帯電話業界外からの参入が目立つ点も特徴的である。この中で、現在最大のシェアを持つのがNokia(ノキア)の推進するSymbian(シンビアン)である。携帯電話機で約4割の世界シェアを持ち業界の巨人とも呼ばれる同社は、スマートフォンOSを活用し既存顧客を囲い込みたい意向を持つ。マイクロソフトは、Windows Mobileにより、パソコン業界で培った固定インターネット環境の巨大勢力を携帯電話へも拡大する戦略で臨んでいる。新参組でもある検索エンジンのグーグルは、無料のスマートフォン・プラットフォームAndroid(アンドロイド)を提供することで、インターネットを活用した同社のサービス・ユーザーを携帯電話の領域へ拡大させることを狙っている。このように、各社ともに共通しているのは、成長が見込まれるスマートフォン市場で勢力を拡大し、自社のコアビジネスをさらに成長させるシナリオを描く点である。
そして今、スマートフォン業界の各陣営は、こぞってアプリケーションストアの提供を開始した。これは、個人がアプリケーションを開発して販売でき、さらに販売額から開発者に利益を分配するしくみである。アプリケーションストアを運営することにより、各陣営ともにコンテンツや開発者を囲い込むことが可能となり、競争力を増す強力な武器となる可能性も小さくはない。
スマートフォンがもたらす市場の変革
スマートフォン市場での覇権争いが熾烈(しれつ)化する背景には、携帯電話業界を取り巻く環境の変化がある。ネットワークの高速化により、ブロードバンドが広範囲に浸透してきた。世界各地で3Gサービスが始まり、3.9世代(3.9G)と呼ばれる次世代高速無線ネットワーク技術のLTE(long term evolution ロング・ターム・エボリューション)も10年から一部で開始する見込みである。これにともない、携帯電話によるインターネット利用が急激に広まってきた。特にSNSやYouTubeなどの動画サービスへの人気が高まり、いつでも、どこでも利用できるという利便性もあって、携帯電話はその格好のツールとなりつつある。人気の高いアプリケーションやコンテンツは携帯電話の人気をも左右する。携帯電話を単体で利用していた時代には、端末に搭載する機能がそのままその製品の評価につながり、加入者を獲得する大きな基準となっていた。しかしブロードバンドに接続された今、この状況も変化しつつある。特に、成長が期待されるスマートフォンでは、利用可能なアプリケーションやコンテンツが端末を選択する大きな理由となってきている。つまり、どのOSやプラットフォームでどのコンテンツが使えるかが消費者の大きな選択要因となる可能性も潜んでいる。
さらに、スマートフォンで提供するコンテンツやアプリケーションは、特定の携帯電話事業者に限定されず、国境も越えて広範に普及することも可能となる。スマートフォンは携帯電話機やサービスのグローバル化という要素もはらんでいるのである。
LTE(ロング・ターム・エボリューション)
3.9世代携帯電話の通信規格の一つ。伝送速度は、下り(電気通信事業者の設備から利用者の端末へ)で100Mbps(メガビット/秒)以上、上り(利用者の端末から電気通信事業者の設備へ)で50Mbps以上が実現できる。