2010年の日本経済、なお閉塞状況に
日本経済もアメリカ経済と同様に09年夏に「底入れ」した。09年秋以降、景気は上向きに動いている。一つは、企業の在庫調整が進捗し、生産が上向いてきたからだ。二つは、政府の度重なる財政出動があって、下支え効果を果たしていることだ。また、政府・日銀の各種金融支援策や措置も企業倒産を食い止める効果を持った。三つは、中国経済が大規模な財政・金融効果によって世界に先駆けて回復に動き出してきたことである。では10年に日本経済はこのまま順調に景気回復に入り、次第に回復軌道を固めていくのか。危機後の日本経済の行方を考えるにあたって、次の3点が決定的に重要である。
(1)政府の時限的な各種の景気対策(エコポイントやエコカー補助金、資金繰り措置など)が撤廃された後、日本経済に「自立的回復力」が担保されているか。
(2)アメリカを中心とする世界経済が「弱いトレンド」とすれば、日本経済の回復力さらに成長力も「弱含み」にとどまるのではないか。
(3)日本経済に「新しい成長力」を組み込むにはどうしたらいいか。それは時間がどれほどかかるのか。
まず、(1)からである。アメリカと同様に日本の政治家もマスコミも、景気が「底入れ」すれば、近いうちに経済は自然に回復軌道に乗っていくと考えがちだ。だが、一時的な景気支援措置がなくなれば、日本経済の「自立力」は心もとない。その理由の一つは、(2)とも関連するが、日本経済は海外要因(世界経済の動向や円安)という他律的な条件に強く左右されるからだ。もう一つは国内要因が極めて「弱い」ことだ。それは人口減少時代のもと、高齢人口の増大もあって国内市場規模が縮小トレンドにあるからで、これに雇用の伸び悩み(失業率の高止まり)ならびに賃金圧縮化も加わってくる。むろん、財政的措置の出番はあるが、大規模な支援策は財政規律上至難だし、一時的な支援措置にとどまる。
そこで(2)だが、アメリカ経済の回復力は弱く、その持続力もここしばらく期待できない。中国など新興経済は潜在力を大いに期待できても、世界経済を牽引するにはもう少し、時間が必要である。となれば、7割を海外要因に依存する日本経済には、短期間にこうした「弱い世界経済トレンド」から脱出する方法がない。前述のように国内要因も強くない。「フリーフォール」から脱したとしても、10年には世界市場も国内市場も「弱含み」に推移する。だから、デフレ傾向が続き、企業は損益分岐点の悪化に常時対応を迫られる。それは売上減少のもと、労働コスト圧縮を続けざるをえないことを意味する。この結果、雇用や賃金はなかなか増大しない。まして、一時的にせよ、資源価格が高騰すれば、それだけ企業にとってコスト上昇圧力が加わるから、雇用や賃金に下押し圧力が加わり続ける。これは日本経済が「デフレ経済」に深く落ち込むことを示唆する。
脱「戦後経済」を果たすとき
前記の(1)、(2)からすれば、今後の日本経済には「危機後」の閉塞的状況を突破する方法はないのか。唯一の突破策はある。だが、それは時間的に5年間前後は不可欠かもしれない。しかし、考えようによっては2010年はそうした試行に挑戦を開始する絶好の機会ともいえる。日本経済が戦後の経済成長時代を終え、すでに20年経過する。あの戦後経済では誰もが右肩上がりの成長を謳歌できた、素晴らしい時代だった。だが、戦後経済と、キャッチアップを完了して久しい現在とは、日本経済を取り巻く状況は全く異なる。とすれば、本来ならば、1990年代前半に日本経済は主体的、意識的に「戦後経済」から脱却しなければならなかった。だが、すでに20年近く経過した現在に至っても、日本経済は戦後経済構造のままなのだ。輸出型経済を堅持し、円レートの変化に一喜一憂する有り様。90年代では、戦後経済構造でもバブル崩壊後もうまくやれると過信し、結局「失われた10年(Lost Decade)」に閉じ込められてしまった。2000年代の、いわゆるゼロ年代ではアメリカに引かれた世界的なサブプライムバブルに酔って、僥倖(ぎょうこう)的な成長復活を「構造改革の成果」と勘違いし、結果として「失われた10年・Part2」に安住してしまった。
今こそ「両棲型産業構造」に転換を
だから、2010年に始まる10年代こそ、「Part3」としないために、戦後経済構造を産業構造面はもとより、雇用面、地域面、生活面そして行政面から徹底的に見直す、真の転換期にしなければならない。それは輸出主導型経済を転換することだ。それは内需型経済への転換なのかサービス型産業構造への転換なのか。内需は人口減少化・高齢化時代にあってすでに縮小傾向にある。だから、「新たな内需」を創出するメカニズムを日本国内に植え込むのが不可欠だ。ではどうすべきか。それは、日本がなお世界的優位を保つ先端製造業を輸出型から海外立地型(海外投資型)に転換し、拡大する21世紀の世界市場を直接的かつ適切に掌握、対応しうる産業体制を構築することだ。国内に、研究開発・高度部品製造のマザーセンターを中核に関連企業、下請けを組み込み、国内で開発・製造した標準製品を「輸出」ではなく、「海外」の連結会社(エリアセンター)で変形し、海外の生産・販売会社で直接に利益を稼ぐ、いわば「両棲型産業構造(国内立地と海外立地が相互連関する仕組み)」の構築だ。つまり、海外からの利益を国内に還流させ、新たな研究・開発を促進させる仕組みである。
こうした先端製造のマザー型センターと協働関連企業群を国内に積極的に組み込んでいけば、海外投資の拡大化に伴う「空洞化」を抑制するだけでなく、「新たな内需」を生み出せるはずだ。そこから、新たな雇用増や所得増が湧出する。そうなれば、新規の内需型企業が台頭してくる。09年夏、50余年ぶりに実質的に初めて政権交代が起こった。これは1955年体制、すなわち「戦後政治体制」の転換を意味する。この点でこれからは「戦後経済体制」の転換を本格的に企てねばならない。世界経済がここしばらく「弱いトレンド」のなかにあることを奇貨として、日本は2010年代を「日本再出発の10年」とすべく、10年にスタートを切る時なのである。