消費過剰が生んだギリシャ危機
ギリシャの財政危機で日本の財政の持続可能性に疑問がもたれるようになった。ギリシャでは2009年10月に政権交代があり、前政権がGDP(国内総生産)比5%超としていた財政赤字が実は12.7%(最新のデータでは13.6%)で、それまでの数値が偽りであったことが判明した。そのため、投資家たちはギリシャの財政赤字統計に不信感を抱き、同国の財政の持続可能性を疑うようになった。同国の国債格付けは4段階引き下げられて投機的扱いになった。全欧州委員会によると、09年末のギリシャの政府債務残高のGDP比は110%を超えているという。
日本の国と地方を合わせた債務残高のGDP比は170%でギリシャよりもはるかに高い。果たして、日本の財政は持続可能であろうか。
はじめに、ギリシャのマクロ経済を見ておこう。まず驚かされるのは同国の民間消費のGDP比が73%にも達していることである。そのため、2000年以降、ギリシャの内需のGDP比は108~112%と高い数値が続いている。この内需のGDP比が毎年100%を超える分(8~12%)は毎年、外国からの借金による輸入で賄われる。つまり、ギリシャ国民は消費好きで、外国から借金して、消費と財政赤字の資金を調達しているのである。この家計の赤字構造は、08年に世界金融危機を引き起こしたアメリカとそっくりである。
日本の国債、95%以上が国内保有
ギリシャ財政の持続可能性が疑われる根本的理由は、同国の国民が消費に浮かれて、少しも貯蓄せず、自国の国債を引き受けようとしないことにある。実際に、政府が財政破綻を避けようとして緊縮財政を進めようとしたとたん、暴動が起きる始末である。これでは、増税(国民に強制的に貯蓄させること)をして国債を償還しようとすれば、たいへんな混乱に陥るであろう。それでは、日本はどうか。資金循環表(日本銀行)によると、09年度の家計の金融資産残高は1453兆円である。このうちの2.4%は国債(財政投融資特別会計債を含む。以下同じ)で、郵便貯金を含む現金・預金が55%、民間の保険・年金が27%である。家計の預金、民間保険・年金保険料および社会保険料のかなりの割合が郵貯銀行や信用金庫などを含む銀行、民間の保険会社及び社会保障基金を通じて国債に運用されている。これらの機関別の国債(09年度末国債残高は684兆円で、GDP比144%)の保有比率は、銀行38%、民間保険・年金24%、社会保障基金12%である。日本銀行も7.5%保有している。海外の保有比率は4.6%であるから、国債の大部分は日本国内で保有されていることになる。
資金需要低迷で貯蓄は国債へ
このように、国債が国内で順調に消化されているのは、日本企業の資金需要が低迷しているため、銀行も保険会社も社会保障基金も主たる資金運用先として国債を選択せざるを得ないからである。企業は投資(設備投資などの実物資産の購入)が貯蓄(内部留保と減価償却費)を上回る資金不足が普通であるが、日本の企業は1999年以降、資金余剰(貯蓄が投資を上回る)になっており、余剰資金の一部を国債で運用しているくらいである。企業の資金需要がないのは、借金したときの、名目金利から予想インフレ率を引いた予想実質金利がデフレのために高くなっているからである。デフレが予想されると予想インフレ率はマイナスになることに注意。
税収は名目GDPの減少とともに減少するから、 デフレでマイナスの名目成長が続けば、税収は減り続ける一方、社会保障費を中心に財政支出は増え続けるから、国債を発行し続けなければならない。そのため、国債残高のGDP比は上昇し続ける。どこまで国債残高のGDP比が上昇すれば、財政の持続可能性が疑われるようになるのだろうか。人々が国債を引き受けなくなって、国債金利が急上昇して財政破綻に陥るかは、事前に予想することはできない。そのリスクは国債残高のGDP比が上昇するにつれて高まる。しかし、一方で、デフレで企業の資金需要が低迷する限り、国民は貯蓄を国債で運用するしかないという状況も続く。
安定の2%名目成長で財政は改善へ
考えられるシナリオの一つは、いつか財政の持続可能性に疑いが持たれて、国民が資金運用先を日本の国債から外国債(ドル建て国債など)に大きくシフトする結果、大幅な円安になって、輸入物価の上昇から大幅なインフレになることであろう。しかし、成長率が低迷するまま、こうしたシナリオが実現することは望ましくない。望ましいのは、デフレから脱却して、穏やかなインフレ(2~3%程度)になって、予想実質金利が下がり、企業の設備資金需要と家計の住宅資金需要が増えて、実質成長率と名目成長率がともに上昇することである。
実質成長率が2%、名目成長率が4%(インフレ率は2%)程度でそれぞれ安定すれば、税収も順調に増加し、財政は改善する。財政の持続可能性の維持のために増税が必要かどうかは、名目成長率を4%程度まで引き上げてから判断すればよい。
実質成長率と名目成長率をそれぞれ2%と4%程度まで高めるには、日本銀行に2~3%のインフレ目標の達成を義務付ける一方で、規制改革などの構造改革を進めるべきである。