すなわち、当初の景気拡大は、遺憾にも支出先こそ民衆のための社会的支出ではなかったが、マクロ経済学的には、間に形式的に国債市場を挟んでいるだけで、事実上は欧州左翼勢力が提唱するとおり、緩和マネーによる財政拡大によってもたらされたものと言える。そしてその後財政支出が頭打ちになってからは、量的緩和マネーは銀行に無駄にため込まれて実体経済の拡大に回らなかったという点でも、欧州左翼勢力の主張どおりだったと言える。しかも新規の国債発行が鈍れば、日銀が国債を買って追加緩和する余地も当然狭くなってくる。
しかし改憲を狙う安倍首相は、一層の議席上積みのために好景気を演出するべく、再び財政拡大を図るだろう。このまま失業者の解消が続き、目下の実質賃金増加や正社員増加の傾向が進行する中で、さらにまとまった財政出動が加わったならば、消費需要も増え出して、本格的な好況感が広がる中で解散・総選挙が打たれる可能性は否定できない。これに対抗する勢力は、財政再建論に囚われたり、金融緩和に反対して自ら財源を縛ったりしていては、決して安倍首相の野望を防ぐことはできないだろう。
「安倍さんよりもっと好況」をアピールできる政策
長期不況と新自由主義政策に苦しんできた大衆の支持を安倍自民党から奪って野党が勝つためには、安倍自民党を上回る景気拡大を約束する以外にない。それは可能である。なぜなら、自民党は財政再建や対米従属の縛りから逃れられないからである。派手な経済対策をぶち上げても、財務省に骨抜きにされる。建設国債ならよくて赤字国債ならだめだという無意味な縛りもあるので、支出先はハコモノ公共事業に偏る。アメリカがドル高を嫌うので、追加金融緩和も円売り介入もままならない。だから野党はこのような縛りがないことをアピールして、欧州左翼の主張にならい、日銀が国債を買って出した資金を潤沢に使って、介護や貧困対策、医療、教育、子育て支援など、民衆の生活向上のために直接支出して景気を拡大すると提唱するべきである。
こんなことをしても、国の借金が実質的に増えるわけではないし、悪性のインフレが昂進(こうしん)するわけでもない。日銀の持つ国債は、仮に売ったり、政府が返済したりした場合、そのとき日銀に入った通貨はこの世から消えてなくなる。しかし適切な経済規模に応じた通貨量は世の中から減らすわけにいかない。だからインフレ目標を超えないかぎり、日銀の金庫の中の国債は期限がきたら政府が借り換えし続け、返済されることはない。インフレが目標値を超えたときも、それを目標値にまで抑制するために日銀が売る国債は、日銀保有の国債の一部ですむ。よってインフレ目標達成までの間に日銀が買った国債の多くは、日銀の金庫に留まり続け、返す必要はない。
もちろん、いつまでもこれを続けるとハイパーインフレになる。その歯止めがインフレ目標で、これを超えたら支出は増税でまかなわなければならない。これは、大企業の法人税増税や累進課税強化等をあてればよい。そのときになって急にこうした税制を作ろうとしても間に合わないので、今のうちに、将来の支出と、インフレ抑制のために民間人に戻るであろう国債の返済とをまかなうに足る増税の制度を作っておく必要はあるだろう。
その上で、景気が十分よくなるまでの間は、その税収の分は、設備投資補助金や雇用補助金、均等な給付金という形で民間に戻せば、景気の足を引っ張ることなく、かえってプラスになる。そして、景気が拡大するにつれて、この戻す分を漸次縮小して実質増税になっていくようにすれば、スムーズな「出口」戦略となるであろう。