以下の例文は、「情報・知識&オピニオン imidas」のウェブサイト、「時事用語事典」で「青空文庫」について説明した文章(一部)です。
これはイミダス編集部が作成した文章ですから、著作権者はイミダス編集部です。そして、インターネット上のサイトにアップしているので、引用の条件1の「すでに公表されている著作物」にあたります。「すでに公表されている著作物」であれば、著作者が有名か無名かを問わず、商業的な出版物などに限定されるものでもありません。一般の人がネットにアップしたものも「すでに公表された著作物」となります。しかし、未公開の文章、私的な手紙やメールなどは、それが公表されていない以上は、勝手に自分の文章に引用することはできず、著作権者の許諾を得なくてはなりません。
Point2:文章を「引用」するのではなく内容を「参考」にするだけなら許諾は不要
例えば、出版社に勤める人が、上記の「青空文庫」について書かれた内容を参照しつつ、会社のツイッターアカウントで、電子書籍を宣伝するツイートをするとしましょう。この場合、引用の条件を満たす形で「青空文庫」について書かれた文章を利用することも考えられますが、そもそも引用をするのではなく、次のように書くことも可能です。
下線部は、元の文章に含まれる単なる事実に基づく記述であり、元の文章の「創作的な表現」を利用するものではありません。こうした形で取り入れるのであれば、著作権者であるイミダス編集部の許諾は不要です。これは、元の文章を「引用」したものではなく、あくまで元の文章を事実関係の「参考」として利用したものです。
Point3:許諾を得ずに利用するには「必然性」「明瞭区分性」「主従関係」「出所の明示」など「引用」の要件をクリアする必要がある
では、著作権法上の条件を満たす正しい引用の方法を説明します。ここでは、書店に勤める人が、店舗のサイトに電子書籍の広がりについてコラムを書くとします。
上記の例では、条件2の引用する「必然性」があるという条件は満たしています。そして、条件2の「引用部分」が明確になっているかどうか(「明瞭区分性」)についても、「由来を調べてみました」という自分の文章に続けて引用部分をカギ括弧でくくっているので、はっきり区別されているといえます。
そして、条件3の「主従関係」は、自分の文章が「主」で、引用部分が「従」であるという関係性が必要であるということですが、これは引用が「正当な範囲内」かどうかという問題です。引用部分の分量が非常に多く、例えば全体の8~9割も占めていたら、引用部分は「従」とはいえず、「正当な範囲」を超えているということになるでしょう。
さらに、条件4の「出所の明示」も必須です。どこから引用したのかを明記しなくてはなりません。上記の例のようにウェブサイトから引用する場合は、ウェブサイト名とURLを、著作者が分る場合にはその名前も記載し、書籍から引用するなら、著作者の名前、書名、刊行年などを書くようにしてください。また、新聞記事からの引用であれば、新聞名、日付は必ず書いておくべきでしょう。
それから、引用部分を「改変」をせずに利用すること、すなわち、要約や削除、加筆をせず、原則として一字一句そのまま利用することが求められます。
このように、引用の4条件を満たし、引用する文章を改変することなく利用するのであれば、著作権者にわざわざ「使っていいですか」と許諾を求めなくても、著作物を利用できるのです。
著作権法は著作者の権利を守るとともに著作物の利用を促進させる法律
近頃、著作権法がニュースで取り上げられる機会が増えてきたと感じる方も多いのではないでしょうか。例えば、2018年12月、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)が発効したことに伴い、著作権の保護期間が著作者の死後50年から70年に延長されたというニュース。それと、違法ダウンロードの範囲を拡大し、スクリーンショットなども対象としようという著作権法改正の動きやその見送りについて報道がされています。
こうした動きを見ると、著作権法という法律は、著作者の権利だけを守り、利用する側を縛るものだと思われるかもしれません。
(注1)
翻案権……著作者の権利の一つで、著作物を編曲、変形、脚色、映画化、その他翻案などする権利のこと。著作権法第27条に定められている。
(注2)
同一性保持権……著作者の権利の一つで、著作物とその題号(タイトル)の同一性を保持する権利のこと。著作者の意に反してこれらを変更、切除、その他改変することはできない。著作権法第20条に定められている。