基本的に電力自由化にとって重要な制度だが、それは一定の法則性が確保されてのことだ。日本の場合、JEPX市場に供給される電力のほとんどは、東電などの旧一電の電力である。今回の価格高騰の一連の経緯から、毎日およそ10億kWhの電気が売り入札され、8億kWhが買い戻されていることがわかった。2億kWhが「実質売り入札量」、つまり新電力への供給分として市場に残される(数字はおおよそで、正確ではない。毎日正確なデータが公開されることを望む)。
グロス・ビディングは世界各国で行われているが、全量や一定量の供給義務を伴うことが多い。日本のように旧一電の自主的取り組みとされ、毎日売りに出す電力量が変わって良いことになると、かえって市場を混乱させる。今回のJEPX市場価格高騰では、12月26日に、前日まで10億kWh程度あった「売り入札」が8億kWhに減らされ、「買い戻し」も8億kWhになり、その状態が1月24日まで続いたということだ。
実は需給ひっ迫はこの期間中それほど起こっていない。しかし皆無ではなく、最も厳しかったのが1月7日と8日だ。この2日間のインバランス料金は500円/kWhという最高値になっている。実はその時、電力市場における「買い入札量」は空前の13億kWhに達している。大半は旧一電による買い戻しだと思われる。売り入札を抑えただけでなく、必死に買い戻しをしているのである(図4)。
さらに買い戻しでも足りず、慌てて発電所の炊き増しも行って、1月8日には発電量がピークに達している(図8)。需給計画どおりにはならなかったということだ。何が起こっていたのか、本当の解明はまだ行われていない。
図8 2016年度から2020年度までの12月と1月の発電量
高騰の原因⑤電力市場への売り入札量を判断するルールの欠陥
さて「高騰の原因①旧一電による『売り惜しみ』」の項でも触れた「売り入札量の決定ルール」が、重大な危険性をはらんでいることを述べておきたい。「検証・中間取りまとめ」では、まったく問題にもされていないことだ。
グロス・ビディングにあたり、JEPX市場にどれだけ電力を「売り入札」するかを決めるのは、旧一電の小売事業部門である。そのルールは、以下の優先順位で供給力を割り振るというもので、
①自社で小売りする分
②他社に卸す分
③予備力の確保
④燃料不足への備え
⑤市場への出荷(売り入札可能量)
という順番だ。これだと⑤=「残り物」しか「売り入札」できず、まさに毎日、売り入札量が変わり、売り切れが発生しても当然としているルールだと書いた。
今回、寒波襲来や天然ガス在庫減少などを理由に旧一電が売り入札量を減らしたのは、まさに③予備力と、④燃料不足への備えを優先したためだろう。その結果、JEPX市場に流れるはずの電力は大幅に減り、新電力が確保できる電力も減ったが、新電力ユーザー(消費者)の足りない電力は、新電力がインバランス料金を支払うかわりに、送配電網を通じてユーザーに流れこむ。送配電網はユーザーを選ぶことはできないから、需要があれば電気は流れていく。つまり、市場の売り切れにより、新電力が電気を買えなかったとしても、新電力ユーザーには送配電事業者から電気が供給されるということだ。
このとき新電力ユーザーに流れる電力には、旧一電が①で自社用に確保したつもりの電力も含まれている。②の他社分も含まれるだろう。電力は水のようにせき止めておけるものではない。旧一電が確保していたつもりの電力は、送配電事業者を通じて「漏出」してしまうと言えるのではないだろうか。