「性的同意(sexual consent、セクシュアル・コンセント)」とは、性に関わることすべてにおいて、直接的な対話で確認されるべき肯定的な意思表示のこと。同意のない性的行為は暴力であり、性的同意について理解することは互いを尊重した幸せな関係を築く上で欠かせない。性的同意とは何か、「性に関わることすべて」とはどういうことか、同意とは何を指すのかなど、一般社団法人“人間と性”教育研究協議会幹事を務める艮(うしとら)香織・宇都宮大学准教授にうかがった。
――「性的同意」という言葉を知らない人、聞いたこともないという人はまだ多いかもしれません。いつ頃から「性的同意」が大事だと言われるようになったのでしょうか。
「性的同意」がキーワードとして使われるようになったのは、ここ数年のことだと思います。
といっても、「性的同意」の内容自体は、以前から性教育の現場などで言われてきたことです。たとえば「からだの自己決定権」、つまり「私のからだは私のもので、どうするかは自分で決められる」ということや、人と対等な関係をつくることの大切さが、「性的同意」という言葉で表現されていると言えるでしょう。
「性的同意」という言葉が日本で広まったきっかけのひとつとして考えられるのは、アメリカのクリエイターが制作した「Tea Consent(お茶と同意)」(2015年公開)という動画です。誰かに紅茶を淹れるときを例に、相手が欲しいと言っていないとき、酔っているとき、意識がないときに無理やり飲ませてはダメと喩えながら、「セックスも同じ。したくないこともあるし、するかどうかを決めるのはその人自身」と、シンプルなイラストとともにわかりやすく表現しています。この動画は、イギリスの警察署等による「Consent is Everything(同意がすべて)」というキャンペーンに使われた他、SNSで拡散され、世界で1億5000万人以上に閲覧されたと言われています。
当然ながらこうした動きは国際社会で性暴力防止の運動と切り離せません。2017年10月からアメリカで始まった#MeToo運動で、「同意のない性的行為は暴力である」とアピールされたことも影響していると思います。ちなみに、日本では13歳以上の人が性被害に遭ったとき、性暴力と認められるには、刑法176条(強制わいせつ)、177条(強制性交等)などで定められている「暴行又は脅迫」による行為であったこと、あるいは被害者が「抗拒不能(抵抗したり拒否したりできなかった)」であったことを立証しなければなりません。一方、海外の多くの国では1990年代以降、性暴力であるかどうかの判断基準は「同意の有無」となっており、性的行為における「同意」は法的にも非常に重要になっています。
こうした海外の動向に加え、性暴力被害に遭った伊藤詩織さんの裁判などによって、日本でも「性的同意」という言葉に注目が集まるようになりました。大学生が「性的同意」についてキャンペーン活動を行ったり、同意がテーマの海外の絵本等の翻訳が相次いだりするなど、「性的同意」のことを知る機会が次第に増えつつあると思います。
――そもそも性的同意とはなんですか? また、性的同意がないのはどういうケースでしょうか。
まず「同意」とは、言葉を使った直接的な対話で「〜してもいい?」「いいよ」と確認し合う行為です。行動を起こす側に相手の同意を取る責任があります。
大事なのは、「同意」はお互いが積極的にその行為をしたい、つまり明確な「心からのイエス」であることの確認だという点です。「うーん……まあ、いいけど」のような消極的なイエスでは同意したことにはなりませんし、「イヤと言わない(あるいは何も言わない)=いいよ」でもありません。また、口では「いいよ」と言っていても、楽しそうでなかったり、乗り気でない態度だったりする場合も「心からのイエス」とは言えません。日本には「イヤよイヤよも好きのうち」という言葉がありますが、「イヤ」はあくまで「ノー」であり、相手がしたくない行為を強要したら、それは暴力です。「いいよ」と言われたとしても、「心からのイエス」ではないのではないかと感じたら、すぐにその行為をやめ、相手の意思を確認するべきです。