この図から、次の2つのことがわかる。1つ目は大阪市の一人あたりの歳出水準は、2006年から2017年の間、一貫して他の政令市よりも非常に大きいということである。2つ目に橋下徹氏が市長選で当選し、大阪維新の会が市議会と行政府で多数派及び政権を取った2011年以降も歳出規模が一定維持されたということである。大阪維新の会の政治傾向は、行政組織の非効率性を攻撃し行政サービスを縮小する、いわゆる「新自由主義」的性格を持っていると考えられる。しかし、大阪維新の会による財政運営では、大阪市の歳出規模はそれ以前の規模とほぼ同じで、やはり「大きい」ままであったということになる。
これが大阪維新の会の財政運営の実態を表す「第1のファクト(事実)」である。
その理由は、大きくは2つに分けられる。1つは、大阪市における生活保護を含む扶助費が下がらなかったこと、もう1つは、以下に示すように借金の返済である公債費の高止まりに起因している。
【ファクト2】膨らむ公債費に制約された財政と債務残高の抑制の成功
続いて、この公債費(市の借金の返済金)の推移をみていこう。
下図から明らかなように、大阪市の一人あたり公債費の偏差値は、2006年以降、毎年上昇しており、2013年度以降は偏差値80と極めて高い水準で推移している。
借金の返済費用にあたる公債費は、それ以前の市の借金(地方債)の大きさに影響を受ける。実際、2001年から2006年にかけて、大阪市の地方債残高は人口が同規模の横浜市や名古屋市よりも高い水準であった。
また、下図のように2006年を境に、地方債残高は徐々に低下していった。これは、2006年以降の一人あたり公債費の偏差値が、右肩上がりであることとも整合的である。借金の返済の規模が他都市と比較しても大きくなる中、大阪維新の会による市政が始まる2012年以降、公債費の偏差値は80で高止まりを続ける。
その結果、他の都市と比較して、特に一般単独事業債を中心として地方債残高は小さくなっていった。2006年の段階では、一時3兆円に届きかけた地方債残高は、2017年には2兆円付近まで下がっていることが確認できる。
ここから、何が明らかになったと言えるだろうか。
まず、2012年以降の大阪維新の会による財政運営において、維新が政権を取る以前に累積した債務返済が、同政権の財政運営を制約していたことが指摘できる。また、返済が増加する一方、新たな借金を抑制し市の借金総額を減らしコントロールした点は、「身の丈」の財政運営を標榜する同党の主張と整合性があり、実際これに成功したと言えるだろう。これが、「第2のファクト」である。
【ファクト3】人件費の縮小と公務員数の削減
偏差値が上昇したものとして、公債費を挙げたが、一方で低下したのが「人件費」である。人件費は公務員をはじめ、自治体財政に関係する職員や議員の給料・退職金支出によって構成されている。2011年までの大阪市の人件費の水準は、偏差値75付近であり、他の政令市の中でも極めて高かったことが指摘できる。
これが、2011年以降、急落していく。
その結果、2017年には住民一人あたり人件費は名古屋市と同水準となっている。図に示された時期において、名古屋市や横浜市など他の都市部では偏差値が安定して推移していることから、大阪市における変化が独自のものであることが指摘できよう。また、その時期が大阪維新の会の政権運営時期と重なることは言うまでもない。
では、人件費の急落はいかなる形でもたらされたのか。
そもそも、大阪市職員の給料水準は以前から高いとは言い難かった。職員(普通会計)一人あたりの人件費の偏差値をみても大阪市は2010年でも45に過ぎない。2011年に大阪維新の会が政権を取って以降、人件費はさらに抑制され、2017年には実に35まで下がっている。