一方、大阪市は相対的に多数の職員数を維持してきた。人口10万人あたり職員数をみると、大阪市は2011年まで偏差値80に達していた。2017年には68まで急落している。横浜市(偏差値40付近)や名古屋市(偏差値60付近)の人口10万人あたり職員数の偏差値は、いずれも大阪市よりも低いが、2006-17年の期間で安定的に推移しており、人口に対する相対的な職員数の規模を大きく変更しなかったことと対照的である。
大阪市の人件費水準の急落を引き起こした要因は、職員数の抑制と職員給与の抑制の2つである。以上の公務員組織の量的な削減により、人件費の規模を相対的にも大幅に縮めたことが、大阪維新の会により実施された政策の「第3のファクト」である。
【ファクト4】委託料の落札事業者に占める営利企業の増加
財政分析によって得られる、最後のファクトは大阪市の委託料に関する分析である。
筆者は公開データ(大阪市一般会計決算)から、2010年度と2017年度の委託料を比較し、大阪維新の会政権による政策への影響を分析した。2010年度の委託料は1万1090件、2017年度は1万3600件であった。額は2010年度が約922億円、2017年度が約1000億円である。委託料は、基本的な競争入札制度を採る一般競争入札から、特定の事業者への委託を前提とする随意契約まで、いくつかの契約方法が存在する。
この中で、最も競争性が高い委託の方法は、一般競争入札である。2010年度の時点で、大阪市の委託料のうち一般競争入札が占める割合は8.3%であったが、2017年度には20%まで上昇している。2010年度と17年度のいずれの年度でも、委託料において最も割合が多いのは特命随意契約である。特命随意契約とは特定の事業者の持つ技術等の特殊性から、一般競争入札ではなく特定の事業者等へ事業を委託する方法である。
2010年度の特命随意契約の割合は、全事業の69%、2017年度には64%に低下している。この事実だけみると、大阪市における公金の支出において透明性と競争性が高められているようにみえる。しかし、委託料の応札事業者の特性をみると別の論点がみえてくる。
下表は委託料の応札事業者を、株式会社や有限会社といった営利企業、財団法人等、NPO組織等、その他に分類し各契約方法についての応札額の構成をみたものである。
2010年度と17年度を比べると、財団法人関係の特命随意契約(特定事業者を応札者として考える入札方法)の割合は下がり、競争性の高い一般競争入札(価格や競争性の視点から応札者を決める入札方法)の割合が上昇している。一方、営利企業では、一般競争入札での落札の割合が下がり、特命随意契約での落札に占める割合が上昇している。
財団法人などの外郭団体に対する公金の流失が、大阪市における政治と行政、住民組織間の既得権益の一部だと批判した大阪維新の会は、たしかに財団法人に対しての随意契約の割合を下げ、競争性の高い一般競争入札での比重を上昇させた。しかし、古い既得権益の批判に対して行われた政策変更の結果は、大阪市の予算支出が営利企業の事業収入源の一部に転じることを増やすという形になった。
また、特命随意契約の応札トップ20事業者の中には、2010年度には存在していなかった多数の人材派遣業者が加わっている。近年、官製ワーキングプア問題が指摘される中、委託料のこうした変化を手放しで称賛することはできないだろう。また、大阪府下の財団法人によって受託された事業や資金は、基本的に大阪府内で投下されることが期待される。しかし、民間営利企業の落札の場合、その利潤が大阪府外へと流出する可能性も否めない。
大阪に存在するとされた、公務員、住民組織、政治のトライアングルにより構成される「大阪市役所一家」と命名され既得権益としてやり玉に挙がった委託料であったが、その結果生じたのは公務員や非営利部門によって担われてきた公的サービスを、営利企業の事業に転じる「私化」という変化であった。これが、大阪市財政における「4つ目のファクト」である。