2022年ごろから、誰でも気軽に使える「画像生成AI」が話題になっている。スマートフォンやパソコンで画像生成AIを搭載したアプリやソフトを立ち上げて、例えば何か言葉を入力すると、絵を生み出してくれるのだ。絵が苦手な人でも、「くま」「イラスト」「かわいい」とリクエストすれば、かわいいくまの絵を生み出せる。しかし、こうして半ば自動で出力されてくる絵は、いったい「誰のもの」なのだろう? AIの作品? それとも「私」の作品? 著作権などに詳しい福井健策弁護士にうかがった。
「画像生成AI」とは?
いわゆる「ジェネレーティブAI」(生成系AI)のひとつです。生成系AIは、機械学習の成果をもとに、簡単な指示を出すことで文章や音楽、画像などを生成する人工知能(AI)のこと。有名なものでは、1980年代からカリフォルニア大学の教授がバッハ風の音楽を生成するために開発しはじめた「エミー」や、最近話題の、質問に応じて文章を生成する「ChatGPT」などがあります。
生成系AIのうち、テキストや下絵などから画像をつくりだすAIが「画像生成AI」です。テキストを入力して画像を生成するタイプをTtoI(text to imageの略。t2iとも)といい、代表的なものに「Stable Diffusion」というAIがあります。なお、AIに読み込ませた写真や画像から、新しく画像を生成するタイプもあり、こちらはItoI(image to imageの略。i2iとも)と言われています。
私自身、いくつかTtoIタイプのAIを試してみたことがあります。思うような画像が出てくるまで、言葉を選んだり入れ替えたりと試行錯誤しましたが、ものの数十秒で絵が生成されてくるのは面白い体験です。
「著作物」「著作権」をおさらいしよう
いまのところ、純然たるAI生成物は著作物ではない、というのが世界的な通説です。
それはなぜなのかを考えるには、著作権が誰のための、何のためにつくられた権利なのかを振り返る必要があります。
著作権は、権利の歴史の中では比較的新しい、「情報」を守る権利です。
土地などの「所有権」という概念は、現存する世界最古の法律と言われるウル・ナンム法典(紀元前2000年ごろ、メソポタミア)にすでに登場しています。古来、何かを一人で所有するのと二人で所有するのでは分け前をめぐって争いが生じるので、所有をめぐる権利や、それを侵害した場合の罰則を定める必要がありました。
対して、情報は所有するものではなく、「自由流通」されるのが大原則でした。「火のおこし方」という情報を10人で共有したとしても、自分がおこせる火が10分の1になることはありません。このことを経済学では「非競合性が高い」と言います。争いにならないから、独占する必要がなかったのです。
もちろん情報の独占が富や権力を生むこともありますが、それは権利を主張するという形ではなく、主には情報を「秘匿」することで守られてきました。
しかし、印刷技術の向上などで、精度の高い「複製」が可能になると、無断複製の流通による被害が大きくなってきます。海賊版ビジネスを見ればわかるように、本来作り手が受け取るはずの利益を損ない、それによって新たな創作をも困難にするのです。
この複製の問題に対処するために、1710年にイギリスで「アン女王法」が制定されました。著作権に関する世界初の本格的な法律だと言われていて、印刷された本を複製する権利を、一定期間、著者などに帰属させると定めています。
その後20世紀に入ると、複製芸術の本格化やメディアの発達に伴い、著作権に求められる役割は格段に大きくなっていきます。
著作権制度はこういう経緯で成立した制度なので、何を権利の対象とするかは、人々にとってどの程度それが求められているかという視点から、それぞれの時代、それぞれの社会によって個別に決められてきたのです。
日本の「著作権法」
日本における著作権法では、「文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。」(第一条)と定められています。
また著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(第二条)となっています。具体的には文章や絵画、楽曲、写真、建築などが該当します。
著作権とは、簡単に言うと、著作物に対する「複製権」「演奏権・上演権」「譲渡権」「貸与権」「翻訳権」「二次的著作物の利用権」などの権利です。自分の著作物は、他人が勝手にコピーしたり、朗読したり、人に譲ったり、翻訳したり、映画化したりして利益を得ることがないように、著作権によって守られています。