著作権は非常に強力な権利です。著作物と認められた情報は100年近くにわたって世界的に守られ、例えばそれに似たものを無断で発表などすれば、理論上は刑事罰まで科される可能性があります。
ただ、著作権を守る目的は、あくまで「文化の発展」なので、なんでもかんでも著作物として守るというわけではありません。例えば著作物の中に「アイディア」は含まれません。作品の着想、作り方、編集の方法、技法、描写法などがアイディアです。これらの情報は独占されるよりも、自由に使われたほうが文化が花開いて社会全体にメリットをもたらすという考えに基づいています。
このように、人間がつくりあげた情報の中にも、独占を認める情報と、認めない情報があるのです。
AI生成物に対する一般的な認識と現実での運用
それでは、AIがつくりあげる情報はどのように扱うべきなのでしょうか。
著作権の強力さを考えると、AIが無限につくりだす生成物に著作権を認め、そのどれかと似ていれば「権利侵害か」と問題にするような事態になったら、混乱が生じかねません。
AI生成物を著作物として認めることによって社会が被る影響は、そのようにまだ読み切れないところがあります。しかし、では著作物として認めない場合、誰がどのくらい困るのか、実のところ誰もそれほど困らないのではないか。そういうとらえ方もあって、現時点の日本ではAI生成物には著作権が「ない」という整理が主流です。また、これは世界の多くの国での共通認識でもあります。
ただし現実には、AIが生成した情報は、すでに著作物として扱われはじめています。
なぜなら、音楽にしろ文章、絵画、写真にしろ、AIが生成したのか、人が創作したのかを見分けるのは困難なのです。AIにつくらせた絵を「自分の作品です」と主張すれば、著作物として扱わざるを得ない場面は多いでしょう。
その理由のひとつには、AIと人間が協働して生成物をつくりだすケースも多い、ということがあります。自分の下絵をもとに画像を生成して仕上げもした、または曲調や楽器などを指定して生成したメロディにアレンジを施した、といった形は、人間が「創作に寄与」した「共創モデル」として、現行の著作権法の解釈でもその人の著作物だと認められます。
なんといっても、AIが生成してくる画像には、いろいろと「それでいいのか?」と思うような点が多いのです。例えば、私は冒頭で述べたように、IoTタイプの画像生成AIのひとつ、「Stable Diffusion」に絵を描かせてみたことがあります。イメージは「法廷で年配の裁判官を前に話す弁護士、ディズニーアニメ風」。すぐにこんな画像が生成されました。
「ディズニーアニメ風」を感じることはできますが、ちょっと、いやかなり悪夢的です。よく見ると裁判官たちの目が三つとか、口が二つとかあるのがわかりますし、裁判官と相手方の弁護士(向かって左)は恐らくグル、というか同族ですし。
私たちが人間や擬人化キャラクターを描こうと思ったとき、目や口の数を「うっかり」増やしてしまうことはあまりないでしょうが、AIは平気でこういう画像を出してきます。あえて増やしているわけでもなく、増やしたという意識すらないでしょう。ChatGPTが嘘を嘘と思わずに書くのと似ていますね。
こういった画像をもとに、「やっぱり目は二つ、口は一つに……」と修正していって仕上げたならば、それは私がAIと共創した私の著作物として認められるのです。そして、こういう共創モデルが多いから、逆にいえば完全なAI生成物を「私も共創しました」と言われても、恐らく外見から判断するのは難しい場合が多いのですね。
あなたも月300曲をつくる作曲家になれる!?
さらに、フランスではすでにAIの生成物が著作物として登録されています。ヨーロッパでもフランスといえば、人間中心主義の象徴のような、著作権に関しても作家をとても重視する国ですが、フランス版のJASRACで、170年もの歴史を持つ「SACEM」という音楽著作権団体のデータベースには、EUが開発・運営に関わるAI作曲家「AIVA」が生成した音楽が1800曲以上も登録されています。つまり、著作物として管理・許諾されています。
歌詞を人間がつけていれば作詞家名も著作者として明記されますが、インストゥルメンタル曲ならAIVAのみが著作者です。
加えて、AIVA自身が自分の著作権を「売って」います。AIVAの使用条件は、無料か、月額11ユーロ、月額33ユーロの3コース。登録すればAIVAにいくらでも作曲させることができますが、無料コースの場合は楽曲データを所有(=ダウンロード)できるのは月に3曲まで、著作権はユーザーではなく「AIVA」に帰する、という制限があります。しかし、月額33ユーロ(日本円にして約5000円)払えば、月に300曲をダウンロードできて、著作権はユーザーに帰属するという規約です。