「次世代の経済」を創る
2022年6月には、経済協力開発機構(OECD)がSSEに関する勧告文を発表し、続いて国際労働機関(ILO)がSSE推進を決議、2023年4月には国連総会もSSE推進決議案を採択した。こうした世界的な流れの中で開催された今回のサン・セバスティアンでの会議では、国や立場に関係なく、次の2点が強調された。
- ・世界を脅かす分断と貧困、気候危機、民主主義の危機を乗り越えるには、「人」と「(地球)環境」を中心に据えたSSEが不可欠。
・SSEを推進するためには、何より国や立場を超えた「連帯」が重要。
会議初日に登場した欧州委員会の仕事・社会的権利担当委員のニコラス・シュミットは、真剣な眼差しでこう述べた。
「欧州の民主主義に不安を感じる日が来るとは思いもしませんでしたが、今それは危機的状況にあります。社会から取り残されている人々の状況を改善し、民主的な欧州を築くには、社会的経済を広めなければ」
EUは、SSE推進を通して、欧州内の地域格差を解消したいと考えている。
さらにそのために、パンデミックからの復興だけでなく、その先の「持続可能な社会」の実現に向けて掲げたのが、予算8069億ユーロ(約130兆円)の「次世代のEU(Next Generation EU)」計画だ。「誰もが暮らしやすい、よりグリーンで、デジタルで、健康的で、逞しい、平等な欧州を築く」というこの計画において、SSEは大切な役割を担う。
欧州の重要課題であるエネルギー、住宅、食料価格、移民・難民問題への対応策として、市民参加による再生可能エネルギーの拡大、社会的住宅の普及、食料の地産地消、移民・難民の雇用創出など、SSEを通してできることは多い。
EUでは現在、雇用の約10%、GDPの約8%をSSE関連事業が担う。そこでは約1400万人の労働者が働いており、これを「2030年までに2200万人に」と、CEPES理事長のフアン・アントニオ・ペドレーニョは、呼びかける。
「SSEは、より多くの人に、より多くの場所で、よりよい雇用を提供するための中心的アクターにならなければ」
また、SSEが次世代の経済の主役となるために欠かせない要素として、スペイン労働・社会的経済省長官のホアキン・ペレスが挙げたのは、「SSEが普及しやすい政治環境を創ること」だ。政府は従来、大企業との間でのみ政策協議を行ってきたが、そこにSSEの代表を迎え入れ、SSEの理念と活動様式を政策に反映することで、企業全体の経営もより民主的なものに変えていこうと提案する。
このようにEUは、欧州全体として、SSEを推進することで未来のために連帯し、次世代の経済を創ろうとしている。その目的達成の鍵を握る要素として、今回の会議で取り上げられたのが、若者・女性・資金だ。
未来への鍵1 若者
OECDの社会的経済・イノベーションユニット代表のアントネッラ・ノヤによれば、欧州の若者の45%は、大学を出たら起業したいと考えているが、実行するのは5%だと言う。資金準備の困難さや法的手続きの複雑さのために、諦める者が多いからだ。そんな彼らがSSEの枠組みにおいて起業できるよう、EUと各国は、SSE事業組織のための融資や設立支援の組織を創り、若者がより自由に持続可能な未来のための起業に挑戦できる環境を整える必要があると考えている。
それと同時に、SSEの魅力をもっと若者にアピールすべきだと、スペインの労働者協同組合「ユース・タセバエス(Youth TAZEBAEZ)」のアナ・アギーレは主張する。
「例えば協同組合は、社会問題を解決する、人間的で民主的かつ世代間交流の豊かな職場ですが、若い人たちは自分たちには向いていないという先入観を抱いています」
それを変えるために、アギーレたちは「トラベリング・ユニバーシティ」というプロジェクトを通じて、世界各地の大学を巡り、若者に労働者協同組合による起業の魅力とノウハウを伝えている。
従来は若者と縁遠いと考えられてきた農業関係の協同組合も、これからは若者の活躍の場になると話す事業者もいる。6年前、当時25歳でスペイン西部の農産物生産者協同組合「ヘルテ渓谷協同組合グループ(15の小さな協同組合の集まり)」の経営責任者となったモニカ・ティエルノは、若者こそ農業分野にやりがいのある仕事を見つけられると語る。
「例えば、私たちの協同組合のような小農家の集まりでは、技術革新やマーケティングに力を入れてこそ、皆の生活が安定します。それを可能にするのは(技術や経営などを学んだ)私たち若者です」
アギーレとティエルノは共に、SSE関係の集まりには必ず若者の参加を促し、SSEの事業現場にも若者を招いてその魅力を直に感じてもらうことが、変革を起こすために欠かせないと訴えた。
【注】
ロサーノは、「(社会的経済は)基本的に意味することはSSEと同じ」だとしつつも、連帯という言葉にはより政治的な社会変革を目指す意思が含まれているため、SSEが環境・社会運動と深くつながっているラテンアメリカでは、むしろ「連帯経済」という表現が主流なのだと説明する。国際機関はSSEという表現を採用している。