フィアーレ最大の特徴は、軍需産業や環境破壊、搾取、人権侵害、動物虐待、マイノリティへの迫害といったことにつながる活動には、一切融資しないと明言していることだ。その融資先は、社会福祉、有効なエネルギー利用と再生可能エネルギー、環境保護、地産地消、国際協力、教育・文化・スポーツなどの活性化、フェアトレードに関わる事業に限られる。そして、それら融資先の情報は、すべてウェブサイトで公開される。
バレンシア市郊外に作られた、土地の再生と食料の地域循環を目的とする有機菜園。このプロジェクトには、フィアーレが融資した。撮影:篠田有史
倫理銀行グループの人材育成や倫理金融・SSE推進を担う「倫理金融財団」のルシア・ゴメス(42)は、言う。
「私たちは、お金が倫理的に正しく使われることに加え、それがポジティブな社会変革へとつながることを目指しています。経済システムを変える、という野心を抱いている。だから、融資の際は、何よりその事業の社会・環境へのインパクトを細かく評価するのです」
インタビューを受ける「フィアーレ財団」のルシア・ゴメス。5月中旬にマドリードで開かれた総会には、イタリアとスペイン合わせて4万人を超える会員のおよそ15%が参加したと話す。撮影:篠田有史
市民参加が重要
フィアーレは、国内4カ所(ビルバオ、バルセロナ、マドリード、セビリア)に支部を置き、加えて8つの「地域グループ」を持つ。地域グループは、いわば地域におけるフィアーレ応援団で、株主会員がボランティアで組織し運営する。連帯基金のマリアヘススも、フィアーレ東部アンダルシア地域グループのメンバーとして、学校や地域の集まりで倫理銀行の話をするなど、広報の役割を担う。そうしたボランティアたちのおかげで、出資は年々増加傾向にある。
2024年度、「倫理銀行グループ」は、SSEの事業に対し、約12億7000万ユーロ(約2200億円)の融資を実施することができた。とはいえ、その存在感を増すためには、まだまだ課題がある。
1つは、EU(欧州連合)や各国政府との協議の場を増やし、その後押しを得ること。「例えば、欧州投資銀行が、倫理金融に優遇措置を提供してくれれば、倫理金融全体が活性化されます」と、ルシア。
もう1つは、より多くの市民、特に若者の参加だ。その実現のために、70人ほどの若者を集め、「フィアーレのための若者たち」というグループをつくった。
グループに参加するアマイア・レネド(23)は、国際経済開発学修士課程の学生で、今年、マドリードのフィアーレでインターンをした後、株主会員になった。
「大学では、通常、社会的連帯経済について教わりませんから、皆、倫理銀行も知りません。住宅問題のような若者の関心が高いテーマと結びつけ、伝えていきたいと思います」
「フィアーレのための若者たち」に参加するアマイア・レネド。学部時代には哲学も学んだので、”社会におけるお金の意味”に関心があると話す。撮影:篠田有史
若者グループは、中・高・大学生に倫理銀行の話をしたり、フィアーレの雑誌に融資先の取材記事を書いたりしている。若者たちの活動を支えるために、フィアーレは総会で活動予算を確保。若者たちが国内外の融資先を取材したり、講演に出かけたりするのをサポートし、倫理金融の理念を継ぐ世代を育てている。